Find Job! Startup『ネットで見れる企画書!3億3000万円を調達した「nanapiの事業計画書」』でnanapiの事業計画書が公開された。僕もコメントを寄せているのだけど、2010年年末に投資して、その後3年弱、その時その時はドタバタしながら月間訪問者数が160万人くらいだったのが、3000万人近くまで成長した。実際に自分も子供がいたりするが、生まれたばかりの赤ん坊が学校に通うようになった時、嬉しいような、赤ちゃんのころが懐かしいような気持ちに近いものがある。
でも、こうして一歩ひいて事業計画を見ると変わらない所は変わらないなぁ、と思ったりした。そして、いま改めて事業計画書見てもいいなぁとか思ったりして、きっと今ゼロから投資検討してもきっと投資してしまうんだろうなぁとか、この先のことはどうなるかわからないけど、万が一チームが思い描いているような成功に至らなかったとしても(1000億企業になるのを信じているんだけど)、「Nice Tryだったね」ってことで悔いなく爽やかに終われるんだろうなとか、しみじみ感慨深い。そして、そんな気持ちになれる起業家チームに出会えて、ベンチャー・キャピタリスト冥利につきる、幸せだなぁとも。
さてさて、感傷的にはなったが、その中で、改めて思ったことが3つある。
1. アーリーであっても事業機会、戦略の仮説をもつことは大事
2010年の投資当時nanapiは(社名ですら現在のnanapiではなく、ロケットスタートだった)、nanapiというプロダクトこそできあがっていたが、取締役、バイトいれても6人くらいだったし、築何十年の都営アパートみたいなビルに入っていて、トイレも狭く汚れないように「男子も座って小をして」みたいな張り紙がしてあった(今だからカミングアウトするが、ワタクシ変な男子のプライドで張り紙の言いつけを守らず、立ったまま用を足してた、、、ゴメンナサイ)。
しかし、その段階でも明確に狙うべき事業機会の仮説は立っていた。「ソーシャル×バーティカルメディアの時代へ」という大きなトレンドを背景に、大手メディアも個人サイトも取り切れていない『マジック・ミドル』の広告、マーケ領域をとっていく。そして、戦略としても、マジック・ミドルの中でもまずはホビー関連の領域をとっていく、しばらくはnanapiワークス(クラウド・ソーシングでの記事作成)の仕組みを使って記事を量産していく。記事数が成長のドライバーとなり、やがてユーザ数やPV、そして広告売上もついてくる、という形で仮説ができていた。
事業のステージとしては、どアーリーなので、外部環境の変化で事業機会が変わり、戦略も変わることは十分にありえる(と、いうか、覚悟としてはかなりの確率で変わると思っていた方がよい)。でも、もはやエイヤの決めの問題で、どこを狙って(事情機会)、どんなアプローチをとるか(戦略)の仮説がないことには、動きだせない。事業にとって一番重要な戦略レベルでのPDCAのサイクルを回すためには、不確実性が高い状況でも、正解の確率が低くとも、仮説を立てる必要がある。この不確実な状況を判断して、どうするかの意思決定をすることこそが、経営者の仕事だと思う。そういう意味では、不確実性の中で、Best Effortで荒っぽく意思決定をできる人が、スタートアップの経営者向きだと思う。逆に、100%情報収集をして、きっちりと100%の正解を導き出すことの方が得意な人には、スタートアップの経営者は少し居心地が悪いかもしれない。
2. スタートアップは仮説・検証を繰り返しながらのスパイラル状に成長していくもの
不確実な状況の中で、Best Effortな意思決定が大事みたいな話は前述の通りだが、当然環境変化は激しいし、Best Effortな意思決定が外している可能性がある。 “仮説”だから、外していて良いのだ。むしろ大事なのは、戦略レベルでの仮説・検証を繰り返しながら、PDCAを回し、常に修正できることだ。
nanapiでも、当初の戦略に沿い、記事数が事業のドライバーとの仮説のもと、記事を量産していった。当初の戦略では、同時に広告の最適化をかけていき、売上も伸ばしていく計画だった。でも、ユーザ数がクリティカルマスを超える前に、広告の最適化をしても本当に雀の涙のお小遣い稼ぎに終わってしまうとして、途中で戦略を見直し、広告を張ることすらやめてしまった。そして、全リソースを記事作成にぶちこんだ。安定収益のないスタートアップにとって雀の涙でも、お小遣いでも、売上を全て放棄してしまうのは、それはコワイ決断だった。でも、短期的な小さな売上を捨てて、長期的な大きなスケールを取りにいった。そして、ユーザ数が1000万を超えたあたりで、「もう一回広告張ってみる??」と軽いノリで実験してみたら、当初の仮説通りそれなりの売上になった。ぐるっと回って、当初の戦略仮説に戻った感じだ。
また、ユーザ数の成長にしても、当初の戦略通り記事を量産はじめるが、複数領域で個別にバーティカルメディアを立ち上げるほどの記事数の量産が追いつかなかった。早々にnanapi全体を、総合メディア的な構造で記事を充実させていく方向に戦略変更した。記事数に比例してじわじわしか伸びない苦しい時期が続いた。ある記事数に達した時に、今一度バーティカルメディア的な構造にすべく、実験的にカテゴリー分けを細分化してみた。その瞬間、それまでの成長軌道を脱して、急角度での成長カーブに入った。こっちでも、当初の戦略仮説からは、あっさり変更をして、再び当初の仮説に戻った形だ。
全力でひねり出した仮説を、検証しきらないまま途中で放棄してはいけないし、えてして自分が土地勘がある領域で本当に考え抜いた上で出てきた仮説であれば、そう大きく外していない。スタートアップの成長は決して一本道ではない。仮説・検証を繰り返す中で、同じような所をいったりきたりしながら、でも着実にゴールに向かって成長していく。スパイラル状にぐるぐる回りながら、徐々に円を小さくしていきながら上昇していくイメージだ。短期的にうまくいかなくても、あっさりあきらめずに、時期をはかりながら確実に仮説を検証しきっていけば、進むべき方向はみえていくだろう。
3. おいしくなさそうな、誰もやらない所に大金脈が埋まっているかもしれない(ないかもしれない)
nanapiは「できないことをなくす」というビジョンのもと、how toサイトを作っている。いわばhow toのWikipediaを作るようなものだ。Wikipediaは、CGMによってコンテンツ作成コストがゼロで、善意の寄付によって壮大な事業の継続性を支えている。
一方でナナピは、クラウド・ソーシングで安価におさえているとはいえ、記事作成にコストがかかる。そして、売上も自らつくらなくてはいけない。「本当にhow toのWikipediaをやってお金になるの?」、「余りにも事業としてクリティカルマスに達するまでに時間とお金がかかり過ぎて効率が悪いんじゃないか?」と批判的に見ようとすればいくらでも可能だ。
でも、ユーザ、ひいては大げさにいうと人類にとって価値のあることであれば、あとはお金への変換のしかたのHowを自分達の創意工夫と気合いでどうにかすればよいだけだ。そして、一見効率が悪そうでみんながやりたがらないことをやっているからこそ、うまくできてしまった時はそのうまみを総取りできる。想像もしていなかったようなホームランは、途方もないこと、効率が悪いことの中にこそ埋もれているのではないかと思う。(要領の良く取り組むことで二塁打までは出るとは思うが。)もちろんnanapiが本当にホームランの可能性があるのか、またはホームランになれるかは、これからで、神のみぞ知るだ。でも、Think Bigで世の中を変えていくようなコトを成すには、常識からは反したことをしなければならないのではと改めて思う。
これからもnanapiをはじめ、スタートアップが成長し、世の中を変えていくことを支援し、傍らで一緒に歩んでいきたいと思う。世の中を大きく変えるような、スタートアップの一部になれたら、きっとベンチャーキャピタリストとして、ラオウのように「我が人生一点の悔いもなしっ!」と死ねて、本望なんじゃないかと思う。