View of The World - ベンチャーキャピタリストの世界の見方

グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー / 代表パートナー 高宮慎一のブログ (*個人的見解であり、所属する組織、投資先の見解とは異なります)

スタートアップ

日本のスタートアップ業界のビフォーメルカリとアフターメルカリ

毎回投資先がIPOM&Aを迎えると子供が成人式を迎えたようなセンチメンタルな気分になってしまう、、()

 

日本のスタートアップ業界は、ビフォーメルカリ、アフターメルカリで大きく変わる。メルカリのIPOはそれくらいの大きなランドマークだと思う。

 

大きなビジョンを描き、大きく資金調達して、未上場のうちに大きく世界に打ってでる。今までの歴代の錚々たる日本のスタートアップが、できなかったことをやってのけ、日本のスタートアップ業界のロールモデルとなった。何よりも大きいのは、「メルカリが出来るなら、オレ達だって!」と後に続く起業家のマインドを大きく変えてしまったことだ。そして、メルカリそのものの上場で直接的に多くの起業家、エンジェル、VCなど多くの業界関係者を後押しするだろう。しかし、それ以上に業界全体にチャレンジするマインド、チャレンジすればイケるという空気感を醸成したインパクトは大きい

 

創業者の山田さんは、僕がVC駆け出しのころ、山田さんの前の会社ウノウのコールドコールでinfoにメールしたら、社長の山田さんが出てきてくれたというのが出会い。以来、一緒にスカッシュをやったり、家族ぐるみで集まったりと完全に友達になり、この人ならとウノウの時から投資したかったのが、メルカリがはじまってようやく機が訪れ投資させてもらった。プロダクトが出た後の最初のラウンドから社外役員/株主としてご一緒させて頂き、純粋に友人として、友達がここまでのすごいことを成し遂げたのはうれしいし、その成長の過程を同じ船に乗せて体験させてもらえたのは人生の宝だ。

 

メルカリには、これまで以上に大きく飛躍してもらい、日本から世界にでるメガベンチャー、新産業のために、ヒデオ・ノモのように道をつけてもらいたいし、応援したい。そして、僕もメルカリがキャリアハイとなることないよう、メルカリに続くスタートアップを支援し、メルカリ以上に大きく成長させ、日本に新しい産業を生み、世界に挑むのを、今まで以上にガッツと矜持を持って取り組んでいきたい。


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日本のニュースキュレーションアプリ戦争に見る3つの戦略

*本稿は、同僚の湯浅エムレ秀和さんとの共著により、Tech in Asia に寄稿した内容(原文英語)をThe Bridgeが日本語版を掲載したものの転載です。筆者が所属するグロービス・キャピタル・パートナーズは、本稿で言及のある SmartNews や NewsPicks を運営するユーザベースに投資しているが、本稿の執筆にあたり秘密情報は利用していない。

 
 

ニュースキュレーションは、次のモバイルポータルになる可能性があり、モバイル業界では魅力的な新境地だ。2014年から日本が見舞われているニュースアプリの戦いを見ると、この市場で勝利するには新聞戦略、マガジン戦略、プラットフォーム・フィーダー戦略の3つの方法があることがわかる。

 

SmartNews とグノシーは新聞戦略をとっている。NewsPicks Antenna はマガジン戦略をとり、ビジネスニュースに興味を持ち、反応に敏感な熱狂者のコミュニティを作り上げることに成功している。一方、LINE NEWS Yahoo!ニュースは、プラットフォーム・フィーダー戦略をとっていることで有名だ。

 

日本市場から得られる教訓をもとに、これら3つの戦略、それらのキーとなるバリュープロポジションや主要成功要因について見ていきたいと思う。

 

ニュースアプリの何が凄いのか?

ニュースは誰もが毎日消費するものであるからユニークだ。したがって、PC 時代の Google Yahoo! のような、強いモバイルポータルになるという点で、その普遍的な魅力や高いエンゲージメント・レートからニュースアプリは良いポジションにいる。2014 年には、PC よりもモバイルでニュースを読む人の方が多かった。

 

日次ユーザ数を月間ユーザ数で割って得られるエンゲージメント・レートは、モバイルアプリがどの程度アクティブに使われているかを表すが、SmartNews やグノシーでは、その値が50%に近づいており、数百万人のユーザを持つアプリとしては、例外的に高い数値となっている。

 

多くのユーザと高いエンゲージメント・レートという二つの指標が、マネタイズにつながる強靭なユーザ・トラフィックを生み出している。マネタイズの一つの方法は広告だ。従来からあるバナー広告は、小さなスマートフォン画面では目立たないことが明らかだ。対して、ニュースアプリではネイティブ広告の恩恵に預かっている。ネイティブ広告は、通常コンテンツと見栄えが酷似しているため、アプリの UX に悪影響を及ぼさない。

 

2014年、SmartNews とグノシーは共に自社アドネットワークをローンチ、ネイティブ広告は今後数年間で年30%の成長が期待されるとして、市場はこの動きを歓迎している。

 

マネタイズの他の手段としては、他サービスへのトラフィック誘導が挙げられる。グノシーは201410月、11のサービスと提携し互いにトラフィックを誘導しあう計画を発表した。グノシーは、さまざまな層へのリーチを試みるサービスプロバイダーと共に、ユーザの興味についての多岐にわたるデータを活用する。

 

モバイルポータルが戦略的に重要であること、そして、巨大な利益機会が担保されていることこそが、起業家や投資家がマーケットリーダーになろうと必死になる大きな理由だ。これらの企業が同じ目標に向けて、どのような異なる方法をとっているかを見てみることにしよう。

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横軸:ニュースアプリが広分野のニュースを扱ったか、特定分野にフォーカスしたかで、コンテンツの幅を表す

縦軸:ユーザが情報を受動的(読んだり、シェアしたり)または能動的(コメントしたり、まとめしたり、いいねしたりなど)に情報を扱ったかで、エンゲージメントの深さを表す


上図からは、日本でニュースアプリの戦いに
3種類のプレーヤーがいることがわかる。そのうちの2種類は、スタートアップにとって効果的だ。3種類のプレーヤーと、彼らの戦略がどのように機能するのかを見てみよう。


戦略
1: 新聞戦略
 

この戦略をとるアプリのキーとなるバリュープロポジションは、ユーザが非常に簡単かつ手早い方法で、最も人気のあるニュースが得られるという点だ。新聞戦略をとる主要なプレーヤーは、SmartNews とグノシーだ。

 

これらのアプリは、人気のあるニュース記事を見極めるため、Facebook Twitter のソーシャルフィードを分析、自然言語処理技術を使ってカテゴリ別(ビジネス、スポーツ、エンタメなど)に分類し、スマートフォンに最適化された UI で表示する。また、メディア企業と提携し、単一のメディアからの記事に特化したページが開設できるようにしている。よりよいUXを実現するため、フォントの自動調整、高速キャッシュ、オフラインモード、整理されたインターフェース、直感的ナビゲーションなどの機能も提供している。

 

このカテゴリにおける成功要因はスケーラビリティだ。好循環が一度回り始めると、ユーザの規模もメディアパートナーの数も十分に大きなものになるからだ。次に SmartNews がどのようにスケーラビリティを築き上げたかを見てみよう。

  • 技術……SmartNews はメディア企業というより Google に近い。数千万件におよぶ記事を評価し、同社が持つ独自ランキングアルゴリズムにより、リアルタイムで人気の高いニュースを公正に検知しカテゴライズしている。コンテンツを分析し、ビジネス、エンタメ、ライフスタイルなど異なるカテゴリに分類される。前述したように、ユーザは整理された UI/UX を楽しむことができる。最終的にユーザの手元に届くプロダクトは、動きの速い、直感的で整理されたインターフェイスの、誰もが使えるニュースアプリだ。この点において、グノシーと SmartNews は互いによく似ている。
  • メディア提携……多岐にわたるコンテンツをユーザに届ける上で、メディア提携は非常に重要だ。SmartNews はメディアパートナーに対して、ユーザの誘導と売上の供給という2つのメリットを提供している。201412月現在、10社を超えるパートナーが SmartNews から月間1,000PV 以上のトラフィックを享受している。
SmartNews は、広告売上の40%をコンテンツプロバイダーと共有すると発表している。コンテンツプロバイダーは長年にわたり、オンラインでマネタイズすることに苦戦を強いられている。現在では、概ね100社のメディアパートナーが SmartNews と提携している。

SmartNews もグノシーも、ユーザとメディアパートナーの数が成長し続けているため、両社にとって新聞戦略はうまく機能している。投資からは信頼を(これまでに、SmartNews 4,000万ドルを、グノシーは2,400万ドルを調達)、ユーザからは熱意を(月間アクティブユーザ数は、SmartNews が現在400万人、グノシーは報道で201411月現在で300万人とされている)獲得している。

 

この戦略は日本以外でも通用するようだ。SmarNews は、ウォール・ストリート・ジャーナル・オンライン版のクリエイター Rich Jaroslovsky 氏を起用後、201410月にアメリカでローンチした。3ヶ月で月間アクティブユーザ数100万人を突破し、30社のメディアパートナーと提携した。どちらの数字も増加しづつけている。

 

戦略2: マガジン戦略


この戦略をとるアプリのキーとなるバリュープロポジションは、似た興味を持つユーザ同士のコミュニティを形成できる点だ。この戦略のチャンピオン
2つは、ビジネスニュースの NewsPicks とライフスタイルニュースの Antenna だ。

 

いずれのアプリも、ユーザにアカウントを作成させ、他のユーザをフォローさせ、仲間のコミュニティメンバーと対話させることで、パーソナライゼーションを強調している。NewsPicks は、平均ユーザが1日あたり11分間、最もヘビーなユーザで毎日40分間アプリを使っていると発表した。

 

主要な成功要因は、頻度と深度でユーザのエンゲージメント・レベルを高めるられるかどうかだ。NewsPicks Antenna は、強いコミュニティを維持しユニークなコンテンツを提供することで、ユーザをエンゲージしている。

 

  • コミュニティ……緊密なコミュニティは、アプリを使い続けようとする動機付けになる。NewsPicks Antenna は、ユーザにアカウントを作成させ、他のユーザをフォローさせ、好きなニュースを保存させることで、ニュースを読む体験をパーソナライズすることができる。このパーソナリゼーションは、一般の人々の興味と大きな違いがあるときに最も機能するので、両社はニッチな関心に特化しているとも言える。NewsPicks のユーザはニュースにコメントでき、このコメントはフォロワーのフィードに表示され、最も多くの「いいね」を得られたコメントは上位に表示される。この投票メカニズムは、ユーザに質の高いコメントを書く動機を与えている。Antenna は、好きなニュースをクリップしてもらうことでコミュニティを形成し、ユーザはそれらのニュースを集めた「クリップブック」をフォロワーと共有することができる。
  • ユニークなコンテンツ……ニュースの幅より深さで競っている両社にとって、ユニークなコンテンツは重要だ。この理由から、NewsPicks はビジネス記事を書く自前の編集部を持ち、有料ユーザに対してのみ月額1,500円で記事を提供している。このオリジナルコンテンツには、ビッグニュースの詳細分析、ビジネス界の卓越した人々のインタビュー、主要なビジネスの出来事の振り返りなどが含まれる。NewsPicks のアプリでユーザが書いたコメントは、他では得られないユニークなコンテンツとなっている。


戦略
3: プラットフォーム・フィーダー戦略(既存プラットフォーム・プレーヤー向け)
 

この戦略は、既にヤフーや LINE くらい多くのユーザを抱えていない限り、たいていのスタートアップにとっては適切ではない。この戦略をとるアプリのキーとなるバリュー・プロポジションは、既存サービスの延長線上で、手間をかけずにニュースを配信できることだ。

 

Yahoo!ニュースも、LINE NEWS も、Yahoo! JAPAN ID LINEアカウント でログインしてもらうことで、ユーザはニュースを検索したり、読んだり、所属するグループや友人にシェアしたりすることができる。

 

主要な成功要因は、既存のユーザとブランド価値を生かすために、既存プラットフォームと緊密な連携をすることである。

  • ユーザの獲得……LINE は、ユーザ獲得を実に簡単にやってのけた。5,000万人いるメッセージアプリのユーザに対し、メインメニューに機能を追加して LINE NEWS をダウンロードできるようにしたのだ。この戦略は大きな効果を表し、LINE はテレビ CM を打たずに月間アクティブユーザ数で500万人を獲得した。ヤフーもブランド価値と既存ユーザを活用し、月間アクティブユーザ数180万人を獲得した。LINE NEWS は、モバイルに特化していて、非常に高いアクティブ・エンゲージメント・レート(64%)のユーザを多く抱えているため、ヤフーよりも順調な推移を保っている。
  • コミュニティ……Yahoo!ニュース LINE NEWS は、ユーザが所属するグループや友人と対話するよう促している。PC版の Yahoo!ニュースはユーザコメントの機能で知られるが、この機能はYahoo!ニュースのモバイルアプリにも導入された。LINE NEWS はニュースのハイライトを数行の文章で紹介し、LINE のグループや友人と共有しやすくしている。また、LINE は主に、他の人とシェアされすいゴシップ、エンターテイン面tの、ライフスタイルのニュースに特化している。


結論
 

こうして見てみると、モバイルポータルになれる可能性という観点から、ニュースアプリは戦略が極めて重要ということがわかる。日本におけるニュースアプリ戦争は、この市場を勝ち取る上で新聞戦略かマガジン戦略のいずれかを取るべきだということを教えてくれた。この戦いはまだ終わりを迎えておらず、2015年はさらなる進展が期待される。

投資先のナナピがKDDIグループ入り -娘がお嫁に行くおとうさんのキモチ

昨日多くのメディアで取り上げて頂いていますが、投資先のnanapiKDDIグループに入りした。


日経:『KDDI、スマホで連合 ネット11社が情報共有』

ナナピプレスリリース

KDDIプレスリリース


けんすうさん、和田さん、宮崎さんをはじめとするナナピのメンバーには、当初から掲げていた「世の中からできないことをなくす」、何億人、何十億人に使われるサービスを作りたいという大きなビジョンの実現にむけて、KDDIのより大きな後押しを受けて、更なる飛躍を期待しているし、心から願っている。本当によかった、おめでとうございます!

 

今回のような話は、日本のスタートアップエコシステムにとっても、非常に良いことだと思う。うまくいくことで、大企業とスタートアップの連携がもっと増えていくだろうし、大企業のお金が、スタートアップやベンチャーキャピタルに流れ、そのお金が次の世代のスタートアップに還流するという良い循環に入る。

 

そして、facebookに約1.9兆円(USD 19B)で買収されたWhatsappのファウンダーJan Koumfacebook取締役として活躍しているように、けんすうさんをはじめナナピのメンバーのもKDDI内で活躍し、ぜひキーマンがスタートアップと大企業で循環する流れができるといいなと思う。

 

日本のスタートアップ業界が、シリコンバレーのエコシステムのように一段ステージがあがるためにも、今回のケースが成功事例となることを心から応援している。

 

すごく喜ばしい出来事なのだが、わずかながら、一抹の寂しさ感があるのは、大事な娘が若くしてお嫁にいってしまった感じだ(笑)ナナピが、まだバイト入れても6人くらいで、ユーザも160万人くらいの時に、エンジェルの小澤さんの次のラウンド投資したのが4年前。気が付けば、4年は長いようで早く、ユーザも2000万人を突破し、KDDIグループ入りして、あっと言う間にお嫁に行ってしまった。良い旦那さんを見つけて、向こうのご両親も良い方なので、幸せな結婚でよかった。でも、家から出ていってしまうのは、ちょっと寂しい。娘が嫁に行くお父さんの心境ってこんな感じでしょうか??

 

けんすうさん、ナナピの皆さん、結婚おめでとう!KDDI家の皆さん、よろしくおねがいします!

ディー・エヌ・エーのイエモ、メリー買収に思う大企業のスタートアップ連携戦略

なんやかんやで、一年近くブログを書いていない所で、、、話題のネタに絡めて1つ書いてみた。

 

先週10/1付でDeNAによるiemoMERY(ペロリ)の買収が発表された。2社合わせて50億円という買収価格の発表に、急成長サービスとして話題の2つだったが、それは高いのか、安いのか、DeNAは内製でできないのか?など色々な声があがったので、大企業目線では、スタートアップの買収、連携にどのような見方をするのか書いてみた。

 

逆に、スタートアップ界隈が2006年以来の賑わいを見せる中、大企業側もスタートアップとの事業提携、出資、買収、VCへの出資にここ数年来で最も関心が高くなっている。大企業からも、どのように考えたら良いのか、具体的にどう進めたら良いのかと相談を受けることも多いので、その参考になればと。

 
 

 

オープン・イノベーションとは?
 

まず、大企業はなぜで外部のスタートアップと連携するニーズがあるのか?大企業では、既存事業が成熟化してきて成長が鈍化してくると、次なる成長のタネとして新規事業に取り組むことが求められる。(株主から、短期視点で常に成長を求められてしまうのが、現行の資本市場の辛い所なのだが、、、。)

 

普通に考えると既存事業で大きなシェアを持っていて、ヒト、モノ、カネ、ノウハウのあらゆるリソースをふんだんに抱える大企業が、その資産を活用して新規事業を自前ではじめれば、どスタートアップに勝ち目はないのではと思いがちだ。しかし、そうはいかないのが経営の面白い所。そして、だからこそスタートにもチャンスがあるのだ!

                                                                         

既存事業で大きな成功を収め、利益もあがっていると、なかなかその事業を否定したり、その事業の売上を食い合ったりしてしまう事業をやりにくい。慣性(というか惰性??)が働くのだ。「同じ5億円投資するんだったら、チャリンチャリンなっている既存事業に投資した方が確実に明日収益があがる。新規事業なんて当たるかどうかわからないじゃないか、当たっても何年かかるんだ?!」となってしまうわけだ。また、組織運営上の制度や仕組みが、既存事業での利益を最大化するような構造になっているため、その“部分最適”の枠の中にいる限りは、新規事業に手を出しにくくなってしまう。特に、人事評価の部分で、リスクを取って新規事業にチャレンジすると評価されるどころか、現業をちゃんと回していないということでマイナスになりがちで、成功しても余り評価されず、ましては失敗してしまうと目も当てられない。また、大組織になると、起業家のように自律的に動ける人材よりも、決められた役割をきっちりこなすような人材が多くなっている。すると、新規事業をリスクを取ってIntrepreneur=社内起業家的に取り組もうという雰囲気にはなかなかならない。

 

そこで出てきたのが、オープン・イノベーションという考え方。過去のしがらみもなく、だだその新規事業を立ち上げるために最適化している外部とうまく連携し、新規事業のネタを外からとりこんで行こうというという考え方だ。


 
 

大企業の目的
 

大企業がオープン・イノベーションでスタートアップと連携する目的は大きく5つ。スタートアップのステージが早い段階からの順番で言うと;

 

1. スカウティング(情報収集)

今後大きな事業機会になりそうな、または大きな脅威になりそうな兆しに対してアンテナを高くし、いち早く情報を収集する目的。なるべく低コストで、幅広く網かけを行うのが効率的ということになるよって、ひとつひとつのスタートアップに直接投資するというよりは、VCにファンド出資したり、経営企画やR&D企画のような部署にフットワーク軽く外に出て行く外部連携の担当者を置くという形になることが多い。特に、VCに出資することで、自己資金だけでなくファンドの他の投資家の資金もレバレッジして、多くのスタートアップに目をつけることができるので、スカウティング目的では非常に効率が良くなる。出資しているVCを通じて、結果的にスタートアップにお金が入ることになっても、VCへのファンドへの出資比率が数%VCのスタートアップへの出資比率が10%前後と考えると、仮想的な(スタートアップの株がそのまま大企業の持ち物になる訳ではないので)大企業の持分比率は1%以下の極小となることが殆どだ。

 

2. 唾付け

情報収集する中で、「もしかして、これは化けるかもしれない」という兆しがあるスタートアップが出てきたら、いよいよ直接投資をして囲い込みに動く。すごく大きな事業になりそうだから早めに唾をつけておくという攻めと、将来自社の既存事業をひっくり返すリスクを早めに排除しておくという守りの双方の目的がありえる。この段階でもスタートアップはまだまだアーリーの段階の場合が多く、事業会社として金融的なリスクは大きく取りたくないので、数%程度までのマイノリティであることが多い。ソーシャルゲームが立ちあがってきた際に、GREEDeNAがプラットフォームをオープン化し、外部のディベロッパーに自社のプラットフォームにゲームを出させるために、投資を行っていたのがこれにあたる。

 

3. 事業シナジー

スタートアップの事業がいよいよ立ち上がり、ユーザや売上(場合によっては利益も)がついてくるような段階になってくると、大企業、スタートアップの双方にとって連携すると事業上お互いにWin Winになるようなケースが出てくる。プロダクトが補完的な関係にあったり、ユーザ/顧客ベース/販売チャネルが共通であったり、テクノロジーやノウハウが共有できるなどだ。単純な金融的な出資というよりは、“事業提携の契りとして資本提携も伴う”というのが実体だろう。共同で事業を動かすとなるとお互いに相応のコミットをすることになるので、出資比率も10%内外となることが多い。ナナピがKDDI(100%のファンド)から出資を受け、auスマートパス向けにnanapiのコンテンツを配信したり、「モヤモヤnanapi」サービスを提供したりし、相互送客も行ったのなどがこのケースにあたる。

 

 

4. 取り込み

そして、いよいよ「これはいける!自社内でやるべきだ」、「これは早く完全に中に取り込まないとヤバい」という確信めいたものが出てきたら、大企業は買収に走ることになる。多くの場合は、売上、利益と言った財務的な数値が伴っているミドルステージ以降ということになる。また、ユーザ数として膨大な規模に達している、急速に成長しているといったケースもあり得る。論点としては、当然、自前ではできないのか、自前でやるのとどっちが安いのか、早いのか、という議論になる。今回のDeNAによるイエモやメリーの買収がこれにあたる。DeNAとしては、次のコア事業候補としてキュレーションプラットフォーム事業を中に取り込みたいがために、その足掛かりとなるユーザ、システム、人材などを買った形になる。そして、当然取り込むからには、コントロールを握る形、採点でも過半、多くの場合は100%株式を取得する形となる。

 

 

(番外編)5. 金銭的リターン

金銭的なリターンは、投資事業を行っている企業ででもない限り、大企業がスタートアップに出資する主目的にはなりにくい。ただし、前述の1-4の事業上のメリットがでないとしても、最悪損はしないというのは、大企業としては意志決定をする際の背中を押されることとなる。

 
 


スタートアップと大企業とエコシステム
 

大企業から見ると、スタートアップのステージごとに、連携の目的はこのようになる。逆に言うと、スタートアップとしては、大企業から連携を考える際は、自社がどのステージにあり、大企業の目的としてはどれ(または、どの複数の組み合わせ)に該当するのかを見極め、その目的が最大限叶うようなスキームを提案することが重要だ。そうすることで、提携を成功裡にクローズし、またその後の実際の連携もうまくいくように設計ができる。

 

スタートアップのエコシステムがうまく回り、新産業がどんどん立ち上がるための、必須条件のひとつに、スタートアップと大企業連携がうまくいくことがある。スタートアップと大企業が連携を通じて事業が相乗効果で成長する、そしてスタートアップへの出資やM&Aを通じて、大企業のお金がスタートアップに流れこむ。イエモとメリーの例にみられるように日本でもこのようなサイクルがうまく回り始めたし、今後どんどん増えるだろう。今出始めた事例が、成功例となれば、より多く、より大きな金額で、スタートアップと大企業が連携をするようになるだろう。ベンチャーキャピタリストとして、そのような連携の橋渡しをし、日本のスタートアップエコシステムの貢献できればと思う。

投資した当時の2010年のnanapiの事業計画をみて思ったこと

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Find Job! Startup『ネットで見れる企画書!3億3000万円を調達した「nanapiの事業計画書」』
nanapiの事業計画書が公開された。僕もコメントを寄せているのだけど、2010年年末に投資して、その後3年弱、その時その時はドタバタしながら月間訪問者数が160万人くらいだったのが、3000万人近くまで成長した。実際に自分も子供がいたりするが、生まれたばかりの赤ん坊が学校に通うようになった時、嬉しいような、赤ちゃんのころが懐かしいような気持ちに近いものがある。

 

でも、こうして一歩ひいて事業計画を見ると変わらない所は変わらないなぁ、と思ったりした。そして、いま改めて事業計画書見てもいいなぁとか思ったりして、きっと今ゼロから投資検討してもきっと投資してしまうんだろうなぁとか、この先のことはどうなるかわからないけど、万が一チームが思い描いているような成功に至らなかったとしても(1000億企業になるのを信じているんだけど)、「Nice Tryだったね」ってことで悔いなく爽やかに終われるんだろうなとか、しみじみ感慨深い。そして、そんな気持ちになれる起業家チームに出会えて、ベンチャー・キャピタリスト冥利につきる、幸せだなぁとも。


 

 

さてさて、感傷的にはなったが、その中で、改めて思ったことが3つある。

 

1. アーリーであっても事業機会、戦略の仮説をもつことは大事 

2010年の投資当時nanapiは(社名ですら現在のnanapiではなく、ロケットスタートだった)、nanapiというプロダクトこそできあがっていたが、取締役、バイトいれても6人くらいだったし、築何十年の都営アパートみたいなビルに入っていて、トイレも狭く汚れないように「男子も座って小をして」みたいな張り紙がしてあった(今だからカミングアウトするが、ワタクシ変な男子のプライドで張り紙の言いつけを守らず、立ったまま用を足してた、、、ゴメンナサイ)。

しかし、その段階でも明確に狙うべき事業機会の仮説は立っていた。「ソーシャル×バーティカルメディアの時代へ」という大きなトレンドを背景に、大手メディアも個人サイトも取り切れていない『マジック・ミドル』の広告、マーケ領域をとっていく。そして、戦略としても、マジック・ミドルの中でもまずはホビー関連の領域をとっていく、しばらくはnanapiワークス(クラウド・ソーシングでの記事作成)の仕組みを使って記事を量産していく。記事数が成長のドライバーとなり、やがてユーザ数やPV、そして広告売上もついてくる、という形で仮説ができていた。

 事業のステージとしては、どアーリーなので、外部環境の変化で事業機会が変わり、戦略も変わることは十分にありえる(と、いうか、覚悟としてはかなりの確率で変わると思っていた方がよい)。でも、もはやエイヤの決めの問題で、どこを狙って(事情機会)、どんなアプローチをとるか(戦略)の仮説がないことには、動きだせない。事業にとって一番重要な戦略レベルでのPDCAのサイクルを回すためには、不確実性が高い状況でも、正解の確率が低くとも、仮説を立てる必要があるこの不確実な状況を判断して、どうするかの意思決定をすることこそが、経営者の仕事だと思う。そういう意味では、不確実性の中で、Best Effortで荒っぽく意思決定をできる人が、スタートアップの経営者向きだと思う。逆に、100%情報収集をして、きっちりと100%の正解を導き出すことの方が得意な人には、スタートアップの経営者は少し居心地が悪いかもしれない。

 
 

2. スタートアップは仮説・検証を繰り返しながらのスパイラル状に成長していくもの

不確実な状況の中で、Best Effortな意思決定が大事みたいな話は前述の通りだが、当然環境変化は激しいし、Best Effortな意思決定が外している可能性がある。 “仮説”だから、外していて良いのだ。むしろ大事なのは、戦略レベルでの仮説・検証を繰り返しながら、PDCAを回し、常に修正できることだ。

 nanapiでも、当初の戦略に沿い、記事数が事業のドライバーとの仮説のもと、記事を量産していった。当初の戦略では、同時に広告の最適化をかけていき、売上も伸ばしていく計画だった。でも、ユーザ数がクリティカルマスを超える前に、広告の最適化をしても本当に雀の涙のお小遣い稼ぎに終わってしまうとして、途中で戦略を見直し、広告を張ることすらやめてしまった。そして、全リソースを記事作成にぶちこんだ。安定収益のないスタートアップにとって雀の涙でも、お小遣いでも、売上を全て放棄してしまうのは、それはコワイ決断だった。でも、短期的な小さな売上を捨てて、長期的な大きなスケールを取りにいった。そして、ユーザ数が1000万を超えたあたりで、「もう一回広告張ってみる??」と軽いノリで実験してみたら、当初の仮説通りそれなりの売上になった。ぐるっと回って、当初の戦略仮説に戻った感じだ。

 また、ユーザ数の成長にしても、当初の戦略通り記事を量産はじめるが、複数領域で個別にバーティカルメディアを立ち上げるほどの記事数の量産が追いつかなかった。早々にnanapi全体を、総合メディア的な構造で記事を充実させていく方向に戦略変更した。記事数に比例してじわじわしか伸びない苦しい時期が続いた。ある記事数に達した時に、今一度バーティカルメディア的な構造にすべく、実験的にカテゴリー分けを細分化してみた。その瞬間、それまでの成長軌道を脱して、急角度での成長カーブに入った。こっちでも、当初の戦略仮説からは、あっさり変更をして、再び当初の仮説に戻った形だ。

 全力でひねり出した仮説を、検証しきらないまま途中で放棄してはいけないし、えてして自分が土地勘がある領域で本当に考え抜いた上で出てきた仮説であれば、そう大きく外していない。スタートアップの成長は決して一本道ではない。仮説・検証を繰り返す中で、同じような所をいったりきたりしながら、でも着実にゴールに向かって成長していく。スパイラル状にぐるぐる回りながら、徐々に円を小さくしていきながら上昇していくイメージだ。短期的にうまくいかなくても、あっさりあきらめずに、時期をはかりながら確実に仮説を検証しきっていけば、進むべき方向はみえていくだろう。

 


 

3. おいしくなさそうな、誰もやらない所に大金脈が埋まっているかもしれない(ないかもしれない)

 nanapiは「できないことをなくす」というビジョンのもと、how toサイトを作っている。いわばhow toWikipediaを作るようなものだ。Wikipediaは、CGMによってコンテンツ作成コストがゼロで、善意の寄付によって壮大な事業の継続性を支えている。

一方でナナピは、クラウド・ソーシングで安価におさえているとはいえ、記事作成にコストがかかる。そして、売上も自らつくらなくてはいけない。「本当にhow toWikipediaをやってお金になるの?」、「余りにも事業としてクリティカルマスに達するまでに時間とお金がかかり過ぎて効率が悪いんじゃないか?」と批判的に見ようとすればいくらでも可能だ。

でも、ユーザ、ひいては大げさにいうと人類にとって価値のあることであれば、あとはお金への変換のしかたのHowを自分達の創意工夫と気合いでどうにかすればよいだけだ。そして、一見効率が悪そうでみんながやりたがらないことをやっているからこそ、うまくできてしまった時はそのうまみを総取りできる。想像もしていなかったようなホームランは、途方もないこと、効率が悪いことの中にこそ埋もれているのではないかと思う。(要領の良く取り組むことで二塁打までは出るとは思うが。)もちろんnanapiが本当にホームランの可能性があるのか、またはホームランになれるかは、これからで、神のみぞ知るだ。でも、Think Bigで世の中を変えていくようなコトを成すには、常識からは反したことをしなければならないのではと改めて思う。

 

 
 

これからもnanapiをはじめ、スタートアップが成長し、世の中を変えていくことを支援し、傍らで一緒に歩んでいきたいと思う。世の中を大きく変えるような、スタートアップの一部になれたら、きっとベンチャーキャピタリストとして、ラオウのように「我が人生一点の悔いもなしっ!」と死ねて、本望なんじゃないかと思う。

プロフィール

高宮慎一
グロービス・キャピタル・パートナーズ 
代表パートナー

ベンチャーキャピタリスト。Forbesベンチャー投資家ランキング2018年1位、2015年7位、2020年10位。

支援先:アイスタイル、オークファン、カヤック、クービック、しまうまプリント、ナナピ、ピクスタ、ビーバー、ミラティブ、メルカリ、ランサーズ、リブルー、グラシア、ファストドクター等

ハーバードMBA

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