先週Y CombinatorのDemo
Dayにいってきた。San Franciscoにつくなり、牡蠣で食当り→iPhoneの電話帳が消える→レンタカーがレッカーに誘拐される→フライトに一抹の不安を覚え日本でお祓いをしてもらうという珍道中にもめげず、YCの仕組みとしてのすごさみたいなのを書いてみた。
Y Combinatorは、日本だとY Com=「ワイコン」と略されることが多いが、シリコンバレーだとYC=「ワイシー」と訳されることが多い。Paul Graham、Trevor Blackwell,、Jessica Livingston、Robert Morris(投資家トリビア的に面白いのは、YC自体もSequoiaからの投資を受けている。そして、Paul GrahamとJessica LivingstonはYC設立後に結婚、、)によって設立されたシード期に特化した投資会社、通称アクセラレーターなのだが、その特徴はなんといっても投資とメンタリングを伴った3ヶ月のプログラムがセットになっていることだ。
そのプログラムは、年に2回走っていて、各回はBatchと呼ばれている。例えば、今回参加したDemo DayのBatchは47社(去年行った時の75社くらいに比べるとそれでもだいぶ少なくなったようだ)参加している。YCに参加するためには、スタートアップはまずは自分達のアイディアをベースにYCの選考を受ける。やはりここはシード期、事業アイディアそのものよりも、チームを見ている比重が高いようだ。プログラム開始後ピボットをすることは多いし、複数回ピボットをするチームも複数いるようだ。また、アイディア無しのチームだけを評価する選考枠も最近はできている。なので、チームの経験、具体的には起業経験ややろうとしている領域での実務経験があるかなどが効くようだ。ちなみに、日本からはAnyPerkが初2012年に参加したのが初、かつ今の所唯一の会社となっている。
そして、スタートアップは、晴れて合格すると、数百万円出資を受けて、プログラムに参加することになる。基本的にはファウンダー一人につき$5,000程度で、数%から10%程度のシェアを取ることになる。これは、結局Valuationとしては数千万円程度な訳で、スタートアップにとっては相当大きく身を削っていることになる。これが、高いか、安いかは、各スタートアップが何を必要としていて、それをYCから得られるかどうか次第だろう。
プログラムに参加すると、基本的に3ヶ月間缶詰になる。3ヶ月間チームでYCの近くに住み、ひたすらプロダクトを磨くことに集中することを求められる。ネットワーキング禁止、投資家と会うこと禁止、(恋愛禁止かはわからない、、、が)。そして、Office Hourと呼ばれるYCの担当者とアポイントが取れる時間帯が設定され、そこでアポを取りアドバイスが貰える。各Batchには数十社もいるため、YCの担当者は場合によっては名前も覚えていない、前回のメンタリングセッションでどんな議論になったかを覚えていないということもあるらしい。あるYC参加者によると、これは必ずしも悪いことではなく、投資家目線で初見で聞かれるハイレベルな質問に対して、答えられうるよう徹底的に鍛えられ良いとのこと。そして、YCではRon Conway、Yuri
Milner, Andreessen Horowitz、 General Catalyst、Sequoia、Maverick Capitalなどの超一流の投資家(エンジェルからVC、未上場株にも投資をするヘッジファンドまでフルラインで揃っているのが面白い)と提携しており、YCに入ると小額ではあるが自動的に彼らから追加投資が貰えたり、彼らからメンタリングして貰えたりする。また、Mark Zuckerbergなどシリコンバレーの超大物の講演もアレンジされるのもYCならではだろう。
そして、各バッチのハイライトはなんといってもDemo Dayだ。そのバッチの参加スタートアップが一同に会して、投資家400-500人くらいを前にピッチ(プレゼン)を行う(投資家向けDemo Dayの前日、YCの卒業生向けのDemo Dayがあり、全て本番と同じようにピッチをしている)。そして、このピッチ、なんと1社2分!!正直なところ聞いている投資家側としては、2分ではスタートアップのことを理解しきるのは難しい。。。スタートアップにしても、2分で自分達の全てを伝えきるのは無理だろう。おそらくYCの指導による所が大きいのだろうが、よってスタートアップのピッチは極めてハイレベルかつコンパクトになっている。
- 自分達のサービスのバリュープロポジション=世の中のどのような課題にアプローチしているのか(Problem)
- プロダクトコンセプト=それをどのように解決するのか(Solution)
- プロダクトがどんなに伸びているのか(売上やユーザ数などのKPIの週次や月次の伸び率を強調するのだが、よくよく縦軸を見ると単位が数百や数十だったりすることもちらほら、、、)
- そしてチーム
といった感じだ。それだけでも、2分という時間内ではいっぱいいっぱいだ。ちなみに、どれだけ資金調達に成功しているかをピッチで言うのは禁止されている。調達できているスタートアップへのタダ乗り投資を防止するためだ。そして、前のチームが終わると、待ち構えている次のチームが即ピッチを始めて、次々と、ピッチしていく。
YCが仕組みとしてすごく考えられているのは、投資家側にWebベースのシステムへのアクセスが与えられていて、ピッチを聞いて良いと思ったスタートアップには、Demo Dayの当日にアポを取ったり、興味があることを示すLikeボタンがあったりする。また、逆に、YC内にはスタートアップが投資家を評価をしているデータベースもあり、資金調達をした/真剣に検討をした投資家に関して、評価を蓄積していっている。ここで評価が余りに悪いと出入り禁止になるので投資家側も気をつける必要がある。こわい、こわい、、、。
と、まぁ、YCのやっていることはこんな感じなのだが、では、スタートアップにとってYCの価値はどんな所にあるのだろうか?
- メンタリング: 前述の通りYCのメンバー及び外部のアドバイザーが、経営、プロダクト、チーム作り、法務に至るまでスタートアップに必要な多岐な領域でアドバイスをしてくれる。お金そのものには色はない、誰から調達しても同じだ。だったら、お金以外の所でアドバイスをくれる“Smart Investor”から調達すべきだ。
- 横のネットワーク: YCのBatchはいわば同期だ。同期間、しかもYCにセレクトされたそれなりにレベルの高い者同士で、切磋琢磨したり、励まし合ったり、アドバイスし合っているようだ。実利的な所でも、同じバッチの参加者内でβテストをしていたり、最初のユーザーになって貰ったりしているようだ。世の中から注目され、発信力もあるYC参加者が使うことで一気にバイラルして広がるケースもある。
- YCというブランド: いわば学歴みたいなもので、学歴があったからと言って社会に出てできる訳ではないが、何かとチャンスのドアを開いてくれる。YC出身ということだけで、良い意味での色眼鏡では見られるだろう。
この辺りまでは割と当たり前というか、あればあったで嬉しいくらいだと思うのだが、ここからのズバリYCという装置のミソ中のミソだと思う。
縦のネットワーク: スタートアップにとって次のラウンドのファイナンスをどうするかというのは、間近に迫った死活問題だ。YCではDemo Dayで数百名に及ぶ主要投資家を一堂に集め、そこにピッチさせてくれる。一気に主要な投資家にアクセスできる場なんてそうあるものではない。更に、なんと言っても、通常並大抵では会うことすら叶わないRon ConwayやYuri Milnerと言った著名エンジェル(面白い所で現在ではエンジェル投資もしているMC HammerもDemo Dayにきていた笑)、SequoiaやAndreeesenと言った超一流VCのしかも看板パートナーから、メンタリングという名の“プレ営業”のための時間をもらうことができる。また、その他の超有名VCもDemo Dayの前には各Batchの参加者の情報を入手し、唾をつける動きを始める。要するにイケてるスタートアップは、Demo Day以前にピカピカの投資家につながることができ、ある程度“事前に握る(あくまで非公式だが)”ことができる。このような強者連合はシリコンバレーでも日本でもある意味当たり前だし、YCが無くても成立している。しかし、YCという装置の仕組みとしての素晴らしさは、その他大勢のスタートアップもほぼ全てファイナンスの成功に導いている点にある。Demo Dayはお披露目の場であるとともに、実際のファイナンスが決められる場となっている。参加する投資家には、YCから「Hand Shake Rule(口頭合意)」のガイドラインが配れるくらいである。投資家が○○の条件で投資をしたいと言ったのに対して、スタートアップが○○の条件であれば投資を受けてたいと合意し、Demo Dayの後にメールでお互いに確認をしたら、契約者に落ちていなくても、合意とみなすというのがガイドラインだ。そして、実際にDemo Day当日にバンバン投資が決まっていく。そうなってくると、よっぽど名のある投資家は別として、その他大勢数百の投資家は投資家間での競争を煽られながら、なるべく良い条件で、なるべく早くオファーを出すようプレッシャーにさらされる。オークション的な心理が生まれ、そこに市場原理が働くようになる。ピカピカのスタートアップとピカピカの投資家と、そこそこのスタートアップにはそこそこの投資家と、それなりのスタートアップにはそれなりの投資家と、、、といった形でマッチングされていく。結果として、YC参加のほぼ全てのスタートアップに次ラウンドのファイナンスが決まるのだ。シード期を生き抜き次の段階まで到達するスタートアップを量産し、いつかは大化けする可能性をつなぐ‐そう言った意味では、YCはYCの中のみならず、スタートアップ生態系全体がうまく回る所に大きく貢献していると言える。
ちなみに、YCのDemo Dayの次の日にReid Hoffman(LinkedIn会長、Paypal Mafiaの一員、トップVCのGreylockのパートナー)と話をしていたのだが、彼はこのYCの仕組みついて面白い言い方していた。「YCはオンラインのシリコンバレーだ」と。今までシリコンバレーはシリコンバレーという地理的制約にとらわれていた。地理的な制約の中での人間関係の中でエコシステムが成り立っていた。それが故に、地理的、またネットワーク的にアウトサイダーがシリコンバレーに入り込んで、エコシステムのメリットを享受するのが難しかった。しかし、YCはオンラインで全米、場合によっては世界中からスタートアップを募集し、シリコンバレーのネットワークにつなげた。人口や経済が各都市に分散しているアメリカらしい見方だなぁと思った一方、日本も東京のスタートアップシーンの集積度は十分になってきている今、東京以外のスタートアップを活性化する仕組みができたらいいなと思ったりした。
と、長いこと、かなりマニアックな内容を書いたので、近いうちにスタートアップ目線でシード期におけるアクセラレーターやエンジェルからの投資をどう考えようか書いてみようかなと思った次第で。
でも、ほんとに書くかな、、、汗