View of The World - ベンチャーキャピタリストの世界の見方

グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー / 代表パートナー 高宮慎一のブログ (*個人的見解であり、所属する組織、投資先の見解とは異なります)

スタートアップ

ディー・エヌ・エーのイエモ、メリー買収に思う大企業のスタートアップ連携戦略

なんやかんやで、一年近くブログを書いていない所で、、、話題のネタに絡めて1つ書いてみた。

 

先週10/1付でDeNAによるiemoMERY(ペロリ)の買収が発表された。2社合わせて50億円という買収価格の発表に、急成長サービスとして話題の2つだったが、それは高いのか、安いのか、DeNAは内製でできないのか?など色々な声があがったので、大企業目線では、スタートアップの買収、連携にどのような見方をするのか書いてみた。

 

逆に、スタートアップ界隈が2006年以来の賑わいを見せる中、大企業側もスタートアップとの事業提携、出資、買収、VCへの出資にここ数年来で最も関心が高くなっている。大企業からも、どのように考えたら良いのか、具体的にどう進めたら良いのかと相談を受けることも多いので、その参考になればと。

 
 

 

オープン・イノベーションとは?
 

まず、大企業はなぜで外部のスタートアップと連携するニーズがあるのか?大企業では、既存事業が成熟化してきて成長が鈍化してくると、次なる成長のタネとして新規事業に取り組むことが求められる。(株主から、短期視点で常に成長を求められてしまうのが、現行の資本市場の辛い所なのだが、、、。)

 

普通に考えると既存事業で大きなシェアを持っていて、ヒト、モノ、カネ、ノウハウのあらゆるリソースをふんだんに抱える大企業が、その資産を活用して新規事業を自前ではじめれば、どスタートアップに勝ち目はないのではと思いがちだ。しかし、そうはいかないのが経営の面白い所。そして、だからこそスタートにもチャンスがあるのだ!

                                                                         

既存事業で大きな成功を収め、利益もあがっていると、なかなかその事業を否定したり、その事業の売上を食い合ったりしてしまう事業をやりにくい。慣性(というか惰性??)が働くのだ。「同じ5億円投資するんだったら、チャリンチャリンなっている既存事業に投資した方が確実に明日収益があがる。新規事業なんて当たるかどうかわからないじゃないか、当たっても何年かかるんだ?!」となってしまうわけだ。また、組織運営上の制度や仕組みが、既存事業での利益を最大化するような構造になっているため、その“部分最適”の枠の中にいる限りは、新規事業に手を出しにくくなってしまう。特に、人事評価の部分で、リスクを取って新規事業にチャレンジすると評価されるどころか、現業をちゃんと回していないということでマイナスになりがちで、成功しても余り評価されず、ましては失敗してしまうと目も当てられない。また、大組織になると、起業家のように自律的に動ける人材よりも、決められた役割をきっちりこなすような人材が多くなっている。すると、新規事業をリスクを取ってIntrepreneur=社内起業家的に取り組もうという雰囲気にはなかなかならない。

 

そこで出てきたのが、オープン・イノベーションという考え方。過去のしがらみもなく、だだその新規事業を立ち上げるために最適化している外部とうまく連携し、新規事業のネタを外からとりこんで行こうというという考え方だ。


 
 

大企業の目的
 

大企業がオープン・イノベーションでスタートアップと連携する目的は大きく5つ。スタートアップのステージが早い段階からの順番で言うと;

 

1. スカウティング(情報収集)

今後大きな事業機会になりそうな、または大きな脅威になりそうな兆しに対してアンテナを高くし、いち早く情報を収集する目的。なるべく低コストで、幅広く網かけを行うのが効率的ということになるよって、ひとつひとつのスタートアップに直接投資するというよりは、VCにファンド出資したり、経営企画やR&D企画のような部署にフットワーク軽く外に出て行く外部連携の担当者を置くという形になることが多い。特に、VCに出資することで、自己資金だけでなくファンドの他の投資家の資金もレバレッジして、多くのスタートアップに目をつけることができるので、スカウティング目的では非常に効率が良くなる。出資しているVCを通じて、結果的にスタートアップにお金が入ることになっても、VCへのファンドへの出資比率が数%VCのスタートアップへの出資比率が10%前後と考えると、仮想的な(スタートアップの株がそのまま大企業の持ち物になる訳ではないので)大企業の持分比率は1%以下の極小となることが殆どだ。

 

2. 唾付け

情報収集する中で、「もしかして、これは化けるかもしれない」という兆しがあるスタートアップが出てきたら、いよいよ直接投資をして囲い込みに動く。すごく大きな事業になりそうだから早めに唾をつけておくという攻めと、将来自社の既存事業をひっくり返すリスクを早めに排除しておくという守りの双方の目的がありえる。この段階でもスタートアップはまだまだアーリーの段階の場合が多く、事業会社として金融的なリスクは大きく取りたくないので、数%程度までのマイノリティであることが多い。ソーシャルゲームが立ちあがってきた際に、GREEDeNAがプラットフォームをオープン化し、外部のディベロッパーに自社のプラットフォームにゲームを出させるために、投資を行っていたのがこれにあたる。

 

3. 事業シナジー

スタートアップの事業がいよいよ立ち上がり、ユーザや売上(場合によっては利益も)がついてくるような段階になってくると、大企業、スタートアップの双方にとって連携すると事業上お互いにWin Winになるようなケースが出てくる。プロダクトが補完的な関係にあったり、ユーザ/顧客ベース/販売チャネルが共通であったり、テクノロジーやノウハウが共有できるなどだ。単純な金融的な出資というよりは、“事業提携の契りとして資本提携も伴う”というのが実体だろう。共同で事業を動かすとなるとお互いに相応のコミットをすることになるので、出資比率も10%内外となることが多い。ナナピがKDDI(100%のファンド)から出資を受け、auスマートパス向けにnanapiのコンテンツを配信したり、「モヤモヤnanapi」サービスを提供したりし、相互送客も行ったのなどがこのケースにあたる。

 

 

4. 取り込み

そして、いよいよ「これはいける!自社内でやるべきだ」、「これは早く完全に中に取り込まないとヤバい」という確信めいたものが出てきたら、大企業は買収に走ることになる。多くの場合は、売上、利益と言った財務的な数値が伴っているミドルステージ以降ということになる。また、ユーザ数として膨大な規模に達している、急速に成長しているといったケースもあり得る。論点としては、当然、自前ではできないのか、自前でやるのとどっちが安いのか、早いのか、という議論になる。今回のDeNAによるイエモやメリーの買収がこれにあたる。DeNAとしては、次のコア事業候補としてキュレーションプラットフォーム事業を中に取り込みたいがために、その足掛かりとなるユーザ、システム、人材などを買った形になる。そして、当然取り込むからには、コントロールを握る形、採点でも過半、多くの場合は100%株式を取得する形となる。

 

 

(番外編)5. 金銭的リターン

金銭的なリターンは、投資事業を行っている企業ででもない限り、大企業がスタートアップに出資する主目的にはなりにくい。ただし、前述の1-4の事業上のメリットがでないとしても、最悪損はしないというのは、大企業としては意志決定をする際の背中を押されることとなる。

 
 


スタートアップと大企業とエコシステム
 

大企業から見ると、スタートアップのステージごとに、連携の目的はこのようになる。逆に言うと、スタートアップとしては、大企業から連携を考える際は、自社がどのステージにあり、大企業の目的としてはどれ(または、どの複数の組み合わせ)に該当するのかを見極め、その目的が最大限叶うようなスキームを提案することが重要だ。そうすることで、提携を成功裡にクローズし、またその後の実際の連携もうまくいくように設計ができる。

 

スタートアップのエコシステムがうまく回り、新産業がどんどん立ち上がるための、必須条件のひとつに、スタートアップと大企業連携がうまくいくことがある。スタートアップと大企業が連携を通じて事業が相乗効果で成長する、そしてスタートアップへの出資やM&Aを通じて、大企業のお金がスタートアップに流れこむ。イエモとメリーの例にみられるように日本でもこのようなサイクルがうまく回り始めたし、今後どんどん増えるだろう。今出始めた事例が、成功例となれば、より多く、より大きな金額で、スタートアップと大企業が連携をするようになるだろう。ベンチャーキャピタリストとして、そのような連携の橋渡しをし、日本のスタートアップエコシステムの貢献できればと思う。

投資した当時の2010年のnanapiの事業計画をみて思ったこと

nanapi









Find Job! Startup『ネットで見れる企画書!3億3000万円を調達した「nanapiの事業計画書」』
nanapiの事業計画書が公開された。僕もコメントを寄せているのだけど、2010年年末に投資して、その後3年弱、その時その時はドタバタしながら月間訪問者数が160万人くらいだったのが、3000万人近くまで成長した。実際に自分も子供がいたりするが、生まれたばかりの赤ん坊が学校に通うようになった時、嬉しいような、赤ちゃんのころが懐かしいような気持ちに近いものがある。

 

でも、こうして一歩ひいて事業計画を見ると変わらない所は変わらないなぁ、と思ったりした。そして、いま改めて事業計画書見てもいいなぁとか思ったりして、きっと今ゼロから投資検討してもきっと投資してしまうんだろうなぁとか、この先のことはどうなるかわからないけど、万が一チームが思い描いているような成功に至らなかったとしても(1000億企業になるのを信じているんだけど)、「Nice Tryだったね」ってことで悔いなく爽やかに終われるんだろうなとか、しみじみ感慨深い。そして、そんな気持ちになれる起業家チームに出会えて、ベンチャー・キャピタリスト冥利につきる、幸せだなぁとも。


 

 

さてさて、感傷的にはなったが、その中で、改めて思ったことが3つある。

 

1. アーリーであっても事業機会、戦略の仮説をもつことは大事 

2010年の投資当時nanapiは(社名ですら現在のnanapiではなく、ロケットスタートだった)、nanapiというプロダクトこそできあがっていたが、取締役、バイトいれても6人くらいだったし、築何十年の都営アパートみたいなビルに入っていて、トイレも狭く汚れないように「男子も座って小をして」みたいな張り紙がしてあった(今だからカミングアウトするが、ワタクシ変な男子のプライドで張り紙の言いつけを守らず、立ったまま用を足してた、、、ゴメンナサイ)。

しかし、その段階でも明確に狙うべき事業機会の仮説は立っていた。「ソーシャル×バーティカルメディアの時代へ」という大きなトレンドを背景に、大手メディアも個人サイトも取り切れていない『マジック・ミドル』の広告、マーケ領域をとっていく。そして、戦略としても、マジック・ミドルの中でもまずはホビー関連の領域をとっていく、しばらくはnanapiワークス(クラウド・ソーシングでの記事作成)の仕組みを使って記事を量産していく。記事数が成長のドライバーとなり、やがてユーザ数やPV、そして広告売上もついてくる、という形で仮説ができていた。

 事業のステージとしては、どアーリーなので、外部環境の変化で事業機会が変わり、戦略も変わることは十分にありえる(と、いうか、覚悟としてはかなりの確率で変わると思っていた方がよい)。でも、もはやエイヤの決めの問題で、どこを狙って(事情機会)、どんなアプローチをとるか(戦略)の仮説がないことには、動きだせない。事業にとって一番重要な戦略レベルでのPDCAのサイクルを回すためには、不確実性が高い状況でも、正解の確率が低くとも、仮説を立てる必要があるこの不確実な状況を判断して、どうするかの意思決定をすることこそが、経営者の仕事だと思う。そういう意味では、不確実性の中で、Best Effortで荒っぽく意思決定をできる人が、スタートアップの経営者向きだと思う。逆に、100%情報収集をして、きっちりと100%の正解を導き出すことの方が得意な人には、スタートアップの経営者は少し居心地が悪いかもしれない。

 
 

2. スタートアップは仮説・検証を繰り返しながらのスパイラル状に成長していくもの

不確実な状況の中で、Best Effortな意思決定が大事みたいな話は前述の通りだが、当然環境変化は激しいし、Best Effortな意思決定が外している可能性がある。 “仮説”だから、外していて良いのだ。むしろ大事なのは、戦略レベルでの仮説・検証を繰り返しながら、PDCAを回し、常に修正できることだ。

 nanapiでも、当初の戦略に沿い、記事数が事業のドライバーとの仮説のもと、記事を量産していった。当初の戦略では、同時に広告の最適化をかけていき、売上も伸ばしていく計画だった。でも、ユーザ数がクリティカルマスを超える前に、広告の最適化をしても本当に雀の涙のお小遣い稼ぎに終わってしまうとして、途中で戦略を見直し、広告を張ることすらやめてしまった。そして、全リソースを記事作成にぶちこんだ。安定収益のないスタートアップにとって雀の涙でも、お小遣いでも、売上を全て放棄してしまうのは、それはコワイ決断だった。でも、短期的な小さな売上を捨てて、長期的な大きなスケールを取りにいった。そして、ユーザ数が1000万を超えたあたりで、「もう一回広告張ってみる??」と軽いノリで実験してみたら、当初の仮説通りそれなりの売上になった。ぐるっと回って、当初の戦略仮説に戻った感じだ。

 また、ユーザ数の成長にしても、当初の戦略通り記事を量産はじめるが、複数領域で個別にバーティカルメディアを立ち上げるほどの記事数の量産が追いつかなかった。早々にnanapi全体を、総合メディア的な構造で記事を充実させていく方向に戦略変更した。記事数に比例してじわじわしか伸びない苦しい時期が続いた。ある記事数に達した時に、今一度バーティカルメディア的な構造にすべく、実験的にカテゴリー分けを細分化してみた。その瞬間、それまでの成長軌道を脱して、急角度での成長カーブに入った。こっちでも、当初の戦略仮説からは、あっさり変更をして、再び当初の仮説に戻った形だ。

 全力でひねり出した仮説を、検証しきらないまま途中で放棄してはいけないし、えてして自分が土地勘がある領域で本当に考え抜いた上で出てきた仮説であれば、そう大きく外していない。スタートアップの成長は決して一本道ではない。仮説・検証を繰り返す中で、同じような所をいったりきたりしながら、でも着実にゴールに向かって成長していく。スパイラル状にぐるぐる回りながら、徐々に円を小さくしていきながら上昇していくイメージだ。短期的にうまくいかなくても、あっさりあきらめずに、時期をはかりながら確実に仮説を検証しきっていけば、進むべき方向はみえていくだろう。

 


 

3. おいしくなさそうな、誰もやらない所に大金脈が埋まっているかもしれない(ないかもしれない)

 nanapiは「できないことをなくす」というビジョンのもと、how toサイトを作っている。いわばhow toWikipediaを作るようなものだ。Wikipediaは、CGMによってコンテンツ作成コストがゼロで、善意の寄付によって壮大な事業の継続性を支えている。

一方でナナピは、クラウド・ソーシングで安価におさえているとはいえ、記事作成にコストがかかる。そして、売上も自らつくらなくてはいけない。「本当にhow toWikipediaをやってお金になるの?」、「余りにも事業としてクリティカルマスに達するまでに時間とお金がかかり過ぎて効率が悪いんじゃないか?」と批判的に見ようとすればいくらでも可能だ。

でも、ユーザ、ひいては大げさにいうと人類にとって価値のあることであれば、あとはお金への変換のしかたのHowを自分達の創意工夫と気合いでどうにかすればよいだけだ。そして、一見効率が悪そうでみんながやりたがらないことをやっているからこそ、うまくできてしまった時はそのうまみを総取りできる。想像もしていなかったようなホームランは、途方もないこと、効率が悪いことの中にこそ埋もれているのではないかと思う。(要領の良く取り組むことで二塁打までは出るとは思うが。)もちろんnanapiが本当にホームランの可能性があるのか、またはホームランになれるかは、これからで、神のみぞ知るだ。でも、Think Bigで世の中を変えていくようなコトを成すには、常識からは反したことをしなければならないのではと改めて思う。

 

 
 

これからもnanapiをはじめ、スタートアップが成長し、世の中を変えていくことを支援し、傍らで一緒に歩んでいきたいと思う。世の中を大きく変えるような、スタートアップの一部になれたら、きっとベンチャーキャピタリストとして、ラオウのように「我が人生一点の悔いもなしっ!」と死ねて、本望なんじゃないかと思う。

スタートアップの投資家向けピッチイベントでは、プロダクトを売り込むな!

やはりというか、規定路線というか、、、やはりブログの更新が激遅になっております。。。



投資家向けピッチイベントで陥りがちなワナ

 

一応オシゴトが忙しくって、、、という言い訳がてら、最近、仕事がら投資家向けピッチイベントやピッチ大会に審査員や参加者とし行かせて頂く機会が多くある。日本でもシード・アクセレレーター、エンジェルなどシード期に投資する投資家の層が厚くなり、スタートアップの絶対数も増え、また組織的にシード期以降のファイナンスを支援する仕組みができてきたということで、非常に喜ばしいことだ。ある地域でスタートアップのエコシステムがうまく回りだしホットスポット化するまで、今のシリコンバレーが7世代、ニューヨークが4世代、だいたい4世代かかると言われているので、どこから数えるか微妙なのだが、日本もだいたい34世代目なので、そろそろエコシステムとして厚くなってきたということだと思う。

 

しかし、冒頭のようにスタートアップの投資家向けのピッチイベントに参加させて頂き、せっかくスタートアップの皆さんも気合いをいれてすばらしく出来の良い資料を準備し、プレゼンテーションの練習もしてきたのに、ピッチを聞いても「興味があるか判断不能」、「???」となってしまうことがが多い。せっかく良いプロダクトを作っていたり、ちゃんと話を伺ってみたりすると良い事業なのに、もったいないなぁというのが、正直な感想。

 

では、どうして、そんなことになってしまっているかというと、簡単にいうとプロダクトを売り込むピッチになってしまっているからだと思う。つまり、ピッチの内容と、ピッチの目的やオーディエンスである投資家が聞きたいこととが、ズレてしまっているのだ。投資家にとっては、事業全体、もっと言うと事業がスケールするかどうかが最大の関心事なのだ。そして、投資家向けのピッチイベントとしては、目的は投資家に次回ラウンドでのファイナンスを前提に興味をもってもらうことかと思う。で、ピッチイベントは、だいたい2-5分という非常に短い枠内で、しかも多くの場合数十社も同じイベントでピッチをする。その中で、頭ひとつ抜け出さないといけないのは非常にキツイと思う。投資家側も2-5分のピッチだけを聞いて、投資としての興味の有、無を判断するというのは難しいものだ。なので、ピッチイベントはあくまで出会いの場で、具体的な話を始めるきっかけで良い。と、いう意味では、ピッチイベントの目的は、投資家に興味をもってもらって、もう一度ゆっくりサシで話を聞きたいと思わるというゴール設定で良いと思う逆に言うと、イベントの短いピッチの中で、自分の事業、会社について全てを語る必要はないのだ。そこはじっくり話をする次回以降、膝を突き合わせ喧々諤々やりながら伝えていけばよい。

 

では、投資家に興味をもってもらって、一度ゆっくり話をするアポイントをとるにはどうしたら良いのだろうか?(僭越ながら、、、)投資家からすると、“スケールする可能性を感じるか”の一言に尽きる。粗削りでも良い、実現可能性については色々疑問がわいても良い、とにかく大きな絵を描いていて、大きくスケールするポテンシャルを見せつけてほしい。「私を騙して連れ去って」という気持ちに近い(半分笑 半分本気)

 

で、じゃぁ、スケールする可能性はどうやったら感じさせられるか?パターンは3(または、その組み合わせ)くらいしかないような気がする。わかりやすい順、難易度が低い順でいうと;

 

(1) とにかく市場がめちゃめちゃ伸びてる

事業をやるにせよ、投資をするにせよ、一番鉄板なのが、伸びている成長をドメインにすること。伸びている市場で勝ち抜けば大きな成果があるし、自社の業界内での位置付けが横ばいでも市場の伸びで自然に伸びる。出来立てのころの、ゼロから3000億の市場が立ち上がっていったソーシャルゲームなんかが良い例だ。

 

(2) (市場規模はそこそこで成長は余りしていないが、、)絶対に勝てる

市場規模は“そこそこ”の「“そこそこ”って、どれくらいや?!」というつっこみはありつつ、個人的な感覚ではざっくり1000億円、少なくとも数百億後半のイメージ。そこで、圧倒的かつ持続可能な競争優位性があって、長期的視点で勝てるということ。ミソは、“持続可能な”競争優位ということ。一過性のトレンドみたいなもので、一次的に業界一位になってもしょうがない。イメージとしては、中長期的にうまくいった場合1000億市場で一位、20-50%とって、売上200-500億みたいな感じ(利益率にもよりますが)。既存のリアルに縛られた古い業界をネットで置き換えるモデルにありがちなパターン。例えば、投資先だったネットプリントのしまうまプリントは、デジカメプリントで徹底したネット化、IT化、オペレーション効率で、世の中の写真プリント枚数が横ばいの中、リアル店舗や家庭用プリンターからシェアを奪っていった。

 

(3) 経営陣がとにかくワイルドで大物感を感じる

とにかくThink Bigで大きな構想を持ち、リスクテーカーな経営者。このような方は人間的に魅力的で、思わず会ってサシでお話を聞いてみたくなるもの。じっくり話を聞いてみる段階になると、事業の要素もでてくるが、投資家向けピッチイベント後に会ってゆっくり話をきいてみたいと思わせるには、結構有効だったりする。

 

 

では、ピッチをどうしろと??

 

2-5分の短い時間のピッチはどのような構成にすべきか?まずは、何より「投資家にひとつだけ伝えるとしたら、何を伝えるか」を決め、それだけを伝えること全てを紐づかせるべきだと思う。

具体的な、スライドの構成要素としては

(1)    ProblemSolution: 解決する世の中の課題/ニーズは何か?自分達はそれをどのようなプロダクトで解決するのか

(2)     プロダクトの主要部分の説明: ユーザに対してどんなベネフィットを提供し、どんな機能があるのかを、あくまで主要の部分に絞って

(3)     プロダクトの実績: 売上なりユーザ数なりプロダクトが急激に伸びていることの定量的な説明。市場が伸びているなり、絶対勝てるなり、とにかく定量的な実績は説得力がありがち

(4)     市場、競合: 市場規模・成長性、競合の強さなど

(5)     チーム: 経営陣を中心に、この事業で必要な組織能力や強みをチームの経歴から説明

な感じになると思う。でも、繰り返しになるが、(1)-(5)を平坦に全て等しく伝えようとしてはダメだと思う。たった1つの伝えたいメッセージに沿って、濃淡付けをし、場合によっては大胆に省略しても良いと思う。まずは、背景を理解して貰うための(1)や(2)はなるべくコンパクトにする。と、言う意味で、「プロダクトを売り込むな!」ということになる。そして、伝えたいメッセージを補強するために重要な部分には大きく時間を割く。例えば、「市場がとにかく伸びている」と伝えたかったら、市場の所を力説して、競合とかプロダクトの説明とかはさくっと終わらせて良いかもしれない。もしくは、「絶対勝てる」と伝えたかったら、競合やチームの所を大きく取り上げて、市場の説明は短くても良いかもしれない。とにかく全部をカバーしようと欲張らず、伝えたいメッセージひとつで一点突破する方が、次につなげるというピッチイベントの目的には叶うように思う。

 

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と、一方的に、投資家が聞きたい視点で、ピッチイベントでのスタートアップのピッチに述べた。最後に日和って言うと、あくまで私見かつ投資家の立場でのコメントになりますので 汗 (蛇足ながら、投資家向けではなく、その他オーディエンスをターゲットにしたイベントでは目的が異り、当然ピッチの内容も異なると思うので、、、。)

 

ps

色々な投資家向けピッチイベントで審査員や参加させて頂いておりますが、最近参加した特定のイベントや特定のピッチへのコメントではなく、業界全体へのばくっとした感想として。

シード期のスタートアップのファイナンスで覚えておくこと3つ

昨日、今日とMOVIDAOnlabと連日代表的なアクセレレーターのDemo Dayが開催されたから、、、

、、、では全くないが(ホントに筆がおそくだいぶ時間がかかってしまったorz)、前のポストの最後のコメント通り、シード期におけるスタートアップのファイナンスで気をつけるべきことでポストを書いてみた。そして、流行りの「~3つ」という形式で 笑

 

*ちなみに、直接のオシゴトとしては、シード期の次の最初のVCラウンド辺りからが守備範囲なので、シード期におけるファイナンスについては直接利害関係はない。

 

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株式(または株式に転換されるCB=Convertible Bond)による資金調達は、一定の資金を得る代わりに会社の持分を投資家が持つことになる。いわば我が身の一部を削って売り渡すことに等しい。ことさらシード期はバリュエーション(時価総額)が低いので、その意味合いが強くなる。

 

ちなみに、ここでシードとはざっくり、創業メンバーが数人、場合によってはコアメンバーも揃っておらず、事業機会(Problem)とプロダクト/サービス(Solution)のアイディアはあるが、実際にモノを作ってユーザにぶつけてみるのはこれから、またはモノを出してみたものの大幅にユーザに支持を得るに至っていない、逆にそれをするために一般的には数百万~数千万円の下の方の資金を、一数千万~数億円の下の方のバリュエーションで調達するというのをイメージしている。シード期で、アーリーであればあるほど、起業家の思う将来ポテンシャルの価値と、現在の価値の乖離が大きいタイミングはない。起業家は「将来絶対に1000億円に企業になる」と信じているので、数百万円で10%程度の比率をもっていかれることは、純粋な資金調達の観点だけからすると、まじめに考えれば考える程高いと感じるものだ。だからこそ、起業家は、事前に資金調達で、何を得たいかを、ものすごく明確に考えておく必要がある。


 

 

1 資金調達で調達するものは、おカネでなくValue Add

外部からの資金調達で得られるものは、ざっくり次の3つ。

① おカネ

② 投資家からのアドバイス、支援

③ 投資家が抱えるネットワークへのアクセス


 

『① おカネ』だけで考えると「おカネに色は無い」、誰から調達しても500万円は500万円だということになる。一方で、業界で言うところのValue Add=『② 投資家からのアドバイス、支援』、『③ 投資家を通じたネットワークへのアクセス』の観点で考えると、誰から調達するかで、差は大アリだ。イケてる投資家から資金調達をすると、おカネだけでなく次のようなオマケがもれなくついて
くる。実はそのオマケの方こそが価値がある。


 

『② 投資家からのアドバイス、支援』:投資家によって得意不得意、芸風があるので人それぞれだし、ステージによっても濃淡はあるのだ、一般的には、足元どう立ち上げるかの短期的な戦略、上場またはその先までの成長も踏まえた中長期的な戦略、事業成長に伴う組織の拡大、その時に必ず直面する仕組化や組織作りの問題、採用などについてアドバイス、場合によってはかなり現場まで踏み込んで助けてくれる。また、同じような領域で、自分で事業経験があったり、複数社投資している投資家であったりすると、プロダクトやサービスそのものに関しても造詣が深く有効なアドバイスをくれることも多い。シードからするとだいぶ先の話にはなるが、上場経験者だったりすると、上場準備や資本市場とのコミュニケーションのあり方についてもアドバイスをくれたりもする。ことシード期ということであれば、過去の経験からくるプロダクトそのものへのアドバイスであったり、ついつい常勤メンバーであると足元のプロダクトの開発や短期的に売上を作る所に目が行きがちな所を、目線を広く、時間軸を長くするようなアドバイスをするのが投資家の価値となる。次の数億規模のVCラウンドをどうするか、上場に向けどのような成長シナリオを考えるか、果ては上場後も継続して成長するためにはどうすべきかなどだ。

 
 

『③ 投資家が抱えるネットワーク』:スタートアップの世界は、シリコンバレーでも日本でも、頭で理解している以上に人脈で物事が動くというのが体感値としては大きい。その点、イケてる投資家が業界内でもつネットワークは、一朝一夕で築くことができないので、ぜひとも乗っかりたい。その他スタートアップや事業会社と提携をしたり、次のラウンドの資金調達の際のVCをつれてきたりと大きな力を発揮する。イケてる投資家が入っていることはある意味お墨付きのようなもので、実際に提携や資金調達が成功するかはスタートアップの実力次第だが、ドアオープナーとしては絶大な効果を発揮する。イケている投資家の紹介であればキーマンが少なくとも一度は話を聞いてくれるだろう。特に、シード期においては、数億単位の次のVCラウンドを組成する所で、投資家のネットワークは大きく効く。本当にイケてる投資家であれば、VCの会社としての微妙な得意領域、そして組織の中での意思決定の進め方などを把握して、どのようにアプローチしたら良いかアドバイスをくれる。そして、実はここがかなり重要などだが、個別ベンチャーキャピタリストの得意領域、性格も踏まえて誰に話をもっていくのが良いかアドバイスをしてくれるだろう。

 

シード期の安い株価で相応に大きなシェアをもっていくからこそ、そしてシード期の混沌とした状況から同じ船にのるパートナーとして、飛躍する基盤を一緒に作ってくれることを期待するからこそ、誰に投資して貰うかは超重要。逆説的ではあるが、違う言い方をすると会社を大きく成長してくれることにコミットして(それなりに時間、マインドシェアを使って)くれて、本当に貢献してくれる投資家であれば、フルタイムのメンバーに株やストックオプションを分けるようなイメージで、こちらから請う形ででもシード期の安い株価でも投資して貰いたい。

 


 

2 “イケてる投資家”を見極める

そこで、スタートアップとして気になるのは、「じゃぁ“イケてる投資家”ってどうやって見極めたらいいんだ?!」という話だろう。恐らくどの投資家も投資前は「ハンズオンでがっつり支援します!」と営業モードで言うだろう。投資後、具体的に何をやってくれるのか、そして本当に成長に貢献してくれるのかを見極める必要がある。

 

まずは、本人にストレートに聞いてみる。「大きく成長する上で、今のウチの事業の課題は何だと思いますか?」、「その課題を解決するためにはどうすべきだと思いますか?」、「投資して頂いた後にはどのような形で支援いただけるのでしょうか?」。実際に事業をやっている経営者が聞いて、納得がいく、学びがある答えが返ってきたら良いサインだ。

 

そして、一番良いのは、その投資家と実際に一緒に仕事をしている既存投資先や一緒に投資している投資家に聞いてみること。自分の知り合いを辿って聞けるのが一番良いが、その投資家に紹介してもらうのでも良いだろう。大概、狭い業界内で適当なことを言うと自分のレピュテーションにも関わるので、本音の意見をくれるはず。投資家への義理があってなかなかぶっちゃけられない場合でも言外のニュアンスは感じ取れるだろう。


 

 

3 増資だけがファイナンスの手段だけでない

じゃぁ、残念ながらイケてる投資家とコンタクトがない、イケてる投資家から断られてしまた、、、という場合はどうしたらよいか?

 

まずは、ある投資家にある時点で投資して貰えなくても世の中の終わりと思う必要は全然ない。投資家はストライクゾーンに来た球を全て振らなくって良く、“ど真ん中!”、“今が絶好のタイミング!”と確信が持てて始めて投資する生き物なのだ。多くの投資家は(個人のエンジェルは別だが)その背後にいる投資家のおカネを預かる運用受託者としての責任があるので、ストライクゾーンギリギリでボールかどうか臭い球は見送ったりするものだ。ましてやピッチャーがモーションに入ったばかりで球を投げてもいないシード期ならなおさらだ。そして、あるタイミングでは投資しなかった場合でも、次の機会で投資をすることは良くあることなので、イケてると思った投資家には将来のラウンドも視野にいれ、継続的にコンタクトし、事業の進捗などをアップデートしておくとよいだろう。


 

ファイナンスについておカネだけでの視点で考えると、次の4つがある。

(0) 借入

(1) 起業家の自己資金で回す

(2) 会社のキャッシュフローで回す

(3) 株式(または株式に転換されるCBなど)での調達


 

(0) 借入: シード期で売上も立っていないようなスタートアップだと、まず銀行などの金融機関は貸してくれない。そうなると、親族、知人などから、(場合によっては起業家が個人で)借入をすることになってしまう。基本的にはスタートアップへの投資はハイリスク・ハイリターンなので、ほぼ返ってこないくらいの心構えが必要になってくる。本当に余力がある人、またはよっぽどスタートアップや投資に精通したプロ筋ならいざしらず、ふつ~~うの人から借入をすると、いざ返せない時に大揉めに揉めるリスクがある。起業家個人としてファイナンス、社会的リスクを背負うことになる。起業家個人としてリスクを背負うと、経営者として事業上の適正なリスクを取りにくい構造になりがちなので、知人からの借入は、個人的にはよっぽど経済的に余裕がある人かスタートアップや投資に精通したプロに、リスクとリターンをきっちり説明した上でない限り余りお勧めではない。


 

(1) 起業家の自己資金で回す: 起業家が個人の貯金を切り崩してガンガン、スタートアップに突っ込む‐これは借入と同じ個人リスクと事業リスクを分離するという観点で、こちらの場合は全くお勧めしない。ただし、まだまだアイディアだけのタイミングで、前職で安定収入を確保しながら、夜、週末のお仕事として、自分+本当にコアな仲間の最小限のコストでプロダクトを作るためにということであれば、現実解としては悪くないだろう。本当は、100%絶対いけると信じているアイディアに全力投球し、スピードを最大化するために、外部から調達をし、メンバーの生活も保証するというのが理想だ。ただ、現実としては、アイディアだけの段階やイニシャルのプロダクトを出してみたもののユーザの反応がイマイチでまだまだ改良をしなければならない場合、外部の投資家から資金を調達するのが厳しいことも大いにありえる。その場合、投資家に対して、事業上意味のあるマイルストーン(KPIや営業のパイプラインなど)を達成して、計画を達成する実績を見せて調達をする作戦が有効だ。そのマイルストーンを達成するまでは、物理的・時間的にはシンドイとは思うが、個人のリスクもヘッジするという意味でも、スタートアップを夜、週末のお仕事とするのは結構おススメだ。


 

(2) 会社のキャッシュフローで回す: 自己資金で回すと同じ議論で、本命事業に外部から資金を調達するにはちょっとタイミングが早い時には “ナシじゃない”オプションだろう。ただ、受託などのラーメン代稼ぎ(目先で食っていくための短期的かつスケールしない収益稼ぎ。余談だが面白いのは英語にもなっていて“Ramen profitable”と言う 笑)に走ると、ついつい受託ループから抜け出せなくなってしまったり、クライアントにちゃんと納品するために当初想定より多くのリソースを食ってしまったり、本命事業に回すリソースが足りなくなってしまったなんていう話は、スタートアップが陥る典型的な落とし穴だ。それに気をつける前提で、既に起業していてピボットするケースや勢い余って既に前職を辞めてしまった、またはラーメン代稼ぎの事業がある程度放置していてもチャリンチャリン鳴るのであれば良い手だろう。ただ、本命事業に全然集中できない状況になると、本当に本末転倒なので、そこだけはくれぐれも気をつける必要がある。受託ループにはまり中小零細企業に終わってしまうスタートアップは本当に多い。


 

(3) 株式(または株式に転換されるCBなど)での調達: 早く本命事業に集中するために、外部投資家から資金を調達するのは理想的だ。ただ、借入の議論と同様、というか、株式になるとよりリスクは高まるので、ノンプロの知人から株式での調達は基本的にはお勧めしない。プロとしてリスクも十分に承知で、資金以外の面でのValue Addも大きいイケてる投資家から調達すべきだ。投資を受ける側の視点でも、前述の通りシード期においては、投資金額の割には(数百万-数千万円)それなりのシェア(10%内外)をもっていかれることになるので、誰からでも良いので株式で投資を受けられれば良いというのではなく、最強のパートナーと思える投資家を迎えいれられるまでは、何とか自力でもっていくのが良いのはないかと思うそこに至るために、投資家に認められるマイルストーンを達成するために、自己資金や事業のキャッシュフローでつないでいく。

 

まとめると、シード期においては、イケてる投資家から株で出資して貰うことに合わせ込みにいくために、自己資金や事業のキャッシュフローを原資に、プロダクトをリリースしで一定の成果を出す。そして、最強の外部アドバイザーとしての投資家とともに、事業のスケール、スピードを上げることに、ただひたすらそのために突っ走ることができる体制を作ることが、目下の目標だろう。

 

 
 

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エコーズAct3のスタンド攻撃をくらったように筆が重いのだが、、、いつか、次はシード3部作の完結編として、シードににおける“イケてる投資家”にどんな種類のプレーヤーがいるか書いてみよかと。

Y Combinatorというスタートアップ量産装置

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先週Y CombinatorDemo Dayにいってきた。San Franciscoにつくなり、牡蠣で食当り→iPhoneの電話帳が消える→レンタカーがレッカーに誘拐される→フライトに一抹の不安を覚え日本でお祓いをしてもらうという珍道中にもめげず、YCの仕組みとしてのすごさみたいなのを書いてみた。

 

Y Combinatorは、日本だとY Com=「ワイコン」と略されることが多いが、シリコンバレーだとYC=「ワイシー」と訳されることが多い。Paul GrahamTrevor Blackwell,Jessica LivingstonRobert Morris(投資家トリビア的に面白いのは、YC自体もSequoiaからの投資を受けている。そして、Paul GrahamJessica LivingstonYC設立後に結婚、、)によって設立されたシード期に特化した投資会社、通称アクセラレーターなのだが、その特徴はなんといっても投資とメンタリングを伴った3ヶ月のプログラムがセットになっていることだ。

 

そのプログラムは、年に2回走っていて、各回はBatchと呼ばれている。例えば、今回参加したDemo DayBatch47(去年行った時の75社くらいに比べるとそれでもだいぶ少なくなったようだ)参加している。YCに参加するためには、スタートアップはまずは自分達のアイディアをベースにYCの選考を受ける。やはりここはシード期、事業アイディアそのものよりも、チームを見ている比重が高いようだ。プログラム開始後ピボットをすることは多いし、複数回ピボットをするチームも複数いるようだ。また、アイディア無しのチームだけを評価する選考枠も最近はできている。なので、チームの経験、具体的には起業経験ややろうとしている領域での実務経験があるかなどが効くようだ。ちなみに、日本からはAnyPerkが初2012年に参加したのが初、かつ今の所唯一の会社となっている。

 

そして、スタートアップは、晴れて合格すると、数百万円出資を受けて、プログラムに参加することになる。基本的にはファウンダー一人につき$5,000程度で、%から10%程度のシェアを取ることになる。これは、結局Valuationとしては数千万円程度な訳で、スタートアップにとっては相当大きく身を削っていることになる。これが、高いか、安いかは、各スタートアップが何を必要としていて、それをYCから得られるかどうか次第だろう。

 

プログラムに参加すると、基本的に3ヶ月間缶詰になる。3ヶ月間チームでYCの近くに住み、ひたすらプロダクトを磨くことに集中することを求められる。ネットワーキング禁止、投資家と会うこと禁止、(恋愛禁止かはわからない、、、が)。そして、Office Hourと呼ばれるYCの担当者とアポイントが取れる時間帯が設定され、そこでアポを取りアドバイスが貰える。各Batchには数十社もいるため、YCの担当者は場合によっては名前も覚えていない、前回のメンタリングセッションでどんな議論になったかを覚えていないということもあるらしい。あるYC参加者によると、これは必ずしも悪いことではなく、投資家目線で初見で聞かれるハイレベルな質問に対して、答えられうるよう徹底的に鍛えられ良いとのこと。そして、YCではRon ConwayYuri Milner, Andreessen Horowitz General CatalystSequoiaMaverick Capitalなどの超一流の投資家(エンジェルからVC、未上場株にも投資をするヘッジファンドまでフルラインで揃っているのが面白い)と提携しており、YCに入ると小額ではあるが自動的に彼らから追加投資が貰えたり、彼らからメンタリングして貰えたりする。また、Mark Zuckerbergなどシリコンバレーの超大物の講演もアレンジされるのもYCならではだろう。

 

そして、各バッチのハイライトはなんといってもDemo Dayだ。そのバッチの参加スタートアップが一同に会して、投資家400-500人くらいを前にピッチ(プレゼン)を行う(投資家向けDemo Dayの前日、YCの卒業生向けのDemo Dayがあり、全て本番と同じようにピッチをしている)。そして、このピッチ、なんと12分!!正直なところ聞いている投資家側としては、2分ではスタートアップのことを理解しきるのは難しい。。。スタートアップにしても、2分で自分達の全てを伝えきるのは無理だろう。おそらくYCの指導による所が大きいのだろうが、よってスタートアップのピッチは極めてハイレベルかつコンパクトになっている。

  1. 自分達のサービスのバリュープロポジション=世の中のどのような課題にアプローチしているのか(Problem)
  2. プロダクトコンセプ=それをどのように解決するのか(Solution)
  3. プロダクトがどんなに伸びているのか(売上やユーザ数などのKPIの週次や月次の伸び率を強調するのだが、よくよく縦軸を見ると単位が数百や数十だったりすることもちらほら、、、)
  4. そしてチーム

といった感じだ。それだけでも、2分という時間内ではいっぱいいっぱいだ。ちなみに、どれだけ資金調達に成功しているかをピッチで言うのは禁止されている。調達できているスタートアップへのタダ乗り投資を防止するためだ。そして、前のチームが終わると、待ち構えている次のチームが即ピッチを始めて、次々と、ピッチしていく。

YC
が仕組みとしてすごく考えられているのは、投資家側にWebベースのシステムへのアクセスが与えられていて、ピッチを聞いて良いと思ったスタートアップには、Demo Dayの当日にアポを取ったり、興味があることを示すLikeボタンがあったりする。また、逆に、YC内にはスタートアップが投資家を評価をしているデータベースもあり、資金調達をした/真剣に検討をした投資家に関して、評価を蓄積していっている。ここで評価が余りに悪いと出入り禁止になるので投資家側も気をつける必要がある。こわい、こわい、、、。

 

 

と、まぁ、YCのやっていることはこんな感じなのだが、では、スタートアップにとってYCの価値はどんな所にあるのだろうか?

  1. メンタリング前述の通りYCのメンバー及び外部のアドバイザーが、経営、プロダクト、チーム作り、法務に至るまでスタートアップに必要な多岐な領域でアドバイスをしてくれる。お金そのものには色はない、誰から調達しても同じだ。だったら、お金以外の所でアドバイスをくれる“Smart Investor”から調達すべきだ。

  2. 横のネットワークYCBatchはいわば同期だ。同期間、しかもYCにセレクトされたそれなりにレベルの高い者同士で、切磋琢磨したり、励まし合ったり、アドバイスし合っているようだ。実利的な所でも、同じバッチの参加者内でβテストをしていたり、最初のユーザーになって貰ったりしているようだ。世の中から注目され、発信力もあるYC参加者が使うことで一気にバイラルして広がるケースもある。

  3. YCというブランドいわば学歴みたいなもので、学歴があったからと言って社会に出てできる訳ではないが、何かとチャンスのドアを開いてくれる。YC出身ということだけで、良い意味での色眼鏡では見られるだろう。

この辺りまでは割と当たり前というか、あればあったで嬉しいくらいだと思うのだが、ここからのズバリYCという装置のミソ中のミソだと思う。

 

縦のネットワークスタートアップにとって次のラウンドのファイナンスをどうするかというのは、間近に迫った死活問題だ。YCではDemo Dayで数百名に及ぶ主要投資家を一堂に集め、そこにピッチさせてくれる。一気に主要な投資家にアクセスできる場なんてそうあるものではない。更に、なんと言っても、通常並大抵では会うことすら叶わないRon ConwayYuri Milnerと言った著名エンジェル(面白い所で現在ではエンジェル投資もしているMC HammerDemo Dayにきていた笑)SequoiaAndreeesenと言った超一流VCのしかも看板パートナーから、メンタリングという名の“プレ営業”のための時間をもらうことができる。また、その他の超有名VCDemo Dayの前には各Batchの参加者の情報を入手し、唾をつける動きを始める。要するにイケてるスタートアップは、Demo Day以前にピカピカの投資家につながることができ、ある程度“事前に握る(あくまで非公式だが)”ことができる。このような強者連合はシリコンバレーでも日本でもある意味当たり前だし、YCが無くても成立している。しかし、YCという装置の仕組みとしての素晴らしさは、その他大勢のスタートアップもほぼ全てファイナンスの成功に導いている点にある。Demo Dayはお披露目の場であるとともに、実際のファイナンスが決められる場となっている。参加する投資家には、YCから「Hand Shake Rule(口頭合意)」のガイドラインが配れるくらいである。投資家が○○の条件で投資をしたいと言ったのに対して、スタートアップが○○の条件であれば投資を受けてたいと合意し、Demo Dayの後にメールでお互いに確認をしたら、契約者に落ちていなくても、合意とみなすというのがガイドラインだ。そして、実際にDemo Day当日にバンバン投資が決まっていく。そうなってくると、よっぽど名のある投資家は別として、その他大勢数百の投資家は投資家間での競争を煽られながら、なるべく良い条件で、なるべく早くオファーを出すようプレッシャーにさらされる。オークション的な心理が生まれ、そこに市場原理が働くようになる。ピカピカのスタートアップとピカピカの投資家と、そこそこのスタートアップにはそこそこの投資家と、それなりのスタートアップにはそれなりの投資家と、、、といった形でマッチングされていく。結果として、YC参加のほぼ全てのスタートアップに次ラウンドのファイナンスが決まるのだ。シード期を生き抜き次の段階まで到達するスタートアップを量産し、いつかは大化けする可能性をつなぐ‐そう言った意味では、YCYCの中のみならず、スタートアップ生態系全体がうまく回る所に大きく貢献していると言える。

 

 

ちなみに、YCDemo Dayの次の日にReid Hoffman(LinkedIn会長、Paypal Mafiaの一員、トップVCGreylockのパートナー)と話をしていたのだが、彼はこのYCの仕組みついて面白い言い方していた。YCはオンラインのシリコンバレーだ」と。今までシリコンバレーはシリコンバレーという地理的制約にとらわれていた。地理的な制約の中での人間関係の中でエコシステムが成り立っていた。それが故に、地理的、またネットワーク的にアウトサイダーがシリコンバレーに入り込んで、エコシステムのメリットを享受するのが難しかった。しかし、YCはオンラインで全米、場合によっては世界中からスタートアップを募集し、シリコンバレーのネットワークにつなげた。人口や経済が各都市に分散しているアメリカらしい見方だなぁと思った一方、日本も東京のスタートアップシーンの集積度は十分になってきている今、東京以外のスタートアップを活性化する仕組みができたらいいなと思ったりした。

 

 

と、長いこと、かなりマニアックな内容を書いたので、近いうちにスタートアップ目線でシード期におけるアクセラレーターやエンジェルからの投資をどう考えようか書いてみようかなと思った次第で。
でも、ほんとに書くかな、、、汗




プロフィール

高宮慎一
グロービス・キャピタル・パートナーズ 
代表パートナー

ベンチャーキャピタリスト。Forbesベンチャー投資家ランキング2018年1位、2015年7位、2020年10位。

支援先:アイスタイル、オークファン、カヤック、クービック、しまうまプリント、ナナピ、ピクスタ、ビーバー、ミラティブ、メルカリ、ランサーズ、リブルー、グラシア、ファストドクター等

ハーバードMBA

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