こんにちわ高宮です。Clubhouseで界隈が盛り上がっていますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?
前回のポストで「時代は5年後の未来にワープした」と言ったので、2年半に1回のはずが即座に2回ポストすれば、時代に追いつけるのでしょうか?
と、いう訳で、『スタートアップ2021&Beyond』第二回目は、『②スタートアップ資金調達環境編』です。簡単に言うと、「スタートアップの皆さん、まだまだ良い調達環境続きます、より大きく成長するための土壌は整ってきています」、ということだと思っています。
1 未上場調達市場でも金余りは続きスタートアップにとって絶好の調達環境は続く
2021年、そしてBeforeコロナはスタートアップにとって絶好の資金調達環境だった。事業会社、政府系の資金、機関投資家の資金の流入により、2014年には740億円だった日本のスタートアップの資金調達総額は、2019年には2162億円となり、急速な成長を遂げた。
2020年コロナ禍によって、資金調達環境は一変するかに思えたが、大きな流れは変わらなかった。4-5月の1回目の緊急事態宣言下では、わからないことが多すぎて社会全体が委縮し、事業環境は悪化し、投資家は慎重になり、一時的にスタートアップの調達環境も大きく冷え込んだ。しかし、あくまで一時的であり、緊急事態宣言を脱すると『スタートアップ2021&Beyond ①マクロ編 』でも書いたように実体経済はBeforeコロナとまではいかなかったものの需要側供給側ともに急速に戻した。コロナ以降、事業会社の中には本業の業績悪化によりスタートアップ投資にブレーキをかけたところもあり、事業会社のBSないしは一人組合(投資家がその事業会社のみのファンド)での投資は一部縮小したが、総じて言うとスタートアップ投資家の投資意欲は大きくは減退しなかった。VCに関しては、ひとたびファンドを集めると、プロ投資家としてはその資金を運用する必要があるため、投資意欲は大きく減衰することはない。また、インバウンドや飲食などの一部セクターではコロナの影響を大きく受けてしまったが、多くのスタートアップにとっては追い風となり、また多くの事業機会、テーマが登場した(次回は、『③スタートアップテーマ編』)。その結果、投資家の投資意欲は、高止まりしている状態にある。
今後という点でも、継続的なVCへの資金の流入、VC産業のすそ野の拡大と競争時代の幕開けとなり、スタートアップにとっては絶好の調達環境は続くだろう。社会、経済全体、大企業という点では、コロナ禍は全世界的に大きなマイナスインパクトとなり、各国の中央銀行は大幅な金融緩和を行い、世界同時的な金余りの状況となり、投資家の資金は伝統的資産(上場株式、債券)からあふれ、VCにも大きく流れ込んできている。実体経済が回復するまで、金利は上けられないことを考えると、VCへの資金流入は継続し、スタートアップへの潤沢な資金供給はしばらく(年単位で)続くだろう。さらに世界的な金余りは、活況な株式市場とIPO市場をもたらしていて、スタートアップ投資家にとってのExit Valuationを押し上げている。結果として高いEntry(投資時) Valuationを許容できるようにしている。VCへの資金流入によって、スタートアップ投資家間の競争も始まり、スタートアップの好条件での調達を可能とするだろう。
2 レイトステージ投資家も増え百億円の桁での調達も可能になり、上場までの時間を戦略的に長くすることが可能に
潤沢な資金のスタートアップ投資への流入、VCの大型化、上場株投資家やバイアウトなど今まではスタートアップ投資を行ってこなかった大型資金の担い手の参入などによって、数十億円、100億円といった規模のレイトステージにおける大型調達も可能となった。メルカリは上場までに176億円調達し、2020年1-10月において100億円以上調達したスタートアップは2社、50億円以上は10社にも上っている。
上場すると株価を維持するために短期的な業績プレッシャーがかかるのに比べ、未上場の間は投資家の種類が違うため、短期的な赤字や長期目線での事業投資が許容されやすい。大きく成長したスタートアップであればあるほど、事業成長の極大化や経営の柔軟性の確保のために、未上場で調達できる間はなるべく上場を引き延ばそうという方向に向うこととなる。
上場までの期間が長く、累積調達金額が大きくなると、今まで以上に資本政策=どのような投資家を入れるかは、その調達ラウンドのスナップショットの点でなく、上場までの道のりを見据えた線で考えることの重要性が増す。具体的には、シードから大型レイトステージまで一社のリード投資家だけでカバーしきれない場合は、上場までの必要な累積調達額や次ラウンド以降のフォローオン(追加投資)を意識しながら、異なるステージを主戦場とする複数の投資家を入れながら、重複する糊代期間を作り、リード投資家をバトンタッチしていくような体制も検討すると良いだろう。
また、初期から支えた投資家、場合によっては起業家に上場前にExitの機会を作り出すということも増えるだろう。実際に、上場株投資家、PEなどレイトステージが主戦場の投資家にFund to Fund(ファンドからファンドへの売却)でのVC持分の売却や起業家の持分の売却事例も出てきている。今までの日本においては、上場までの道半ばでのセカンダリーの持分売却は、大きくディスカウントされてしまうケースが多く、売却する投資家が期待するようなリターンが出ることは稀だった。投資家のExitという観点でも、上場までの期間を長く取れる土壌が整ってきている。
3 投資家間の競争激化によって、投資家を選ぶ理由としてお金以外の支援がさらに大事に
金あまりの時代の中、VC間の競争も徐々に始まってきている。VCは資金を提供するだけでは差別化ができなくなっていく。VCファンドの大型化は進み(グロービス・キャピタルで言っても2014年4号ファンド115億円、2016年組成の5号ファンド200億円、2019年6号ファンド400億円と、個別ファンド及びアクティブなファンドの総額ともにサイズアップしていっている)、今後は数も多くなるだろう。1000億円規模の上場株投資家やバイアウトファンドもスタートアップ投資に参入してきており、大型レイトステージのラウンドも徐々に混み合ってきている。今後は投資可能金額だけでは差別化できなくなるだろう。すると、VC間の競争のフロンティアは、お金以外でどのようなValue Add=支援をするかに移る。ベンチャーキャピタリストが社外取締役となり、経営レイヤーで戦略や組織作りの壁打ち相手になるのに加えて、Value Add Teamによるオペレーションレイヤーでの支援も拡大していくだろう(実際グロービス・キャピタルでも、GCP Xというバリューアッドチームが、社外取締役の担当キャピタリストと連携しながら、CXOクラスからメンバーまでの採用支援や組織戦略立案、組織構築、仕組み化支援を行っている)。するとスタートアップとしては、今まで以上に、まずは自分たち自身でお金以外でどんな支援を受けたいのかを明確化し、それを提供してくれる投資家を選ぶことが重要となっていくだろう。
「好調な資金調達環境に裏打ちされ、レイトステージ大型調達が可能となり上場までの期間が長くなる。VC間の競争も始まり、資金以外でのValue-addが盛んになる。」この業界の進化は、まさにUSのスタートアップ業界がたどった進化の道であり、日本でもこの流れは確かなものとなるだろう。